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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(5)真実を告げる鏡④

帰路に着いたカレンは、笑いを収めてまたもや考え込んだ。

今度は依頼品についてではない。


「魔法使いを目指すって、考えたこともなかった……」


カレンは、人見知りでも引っ込み思案でもなかったが、どうも独りで黙々とする作業と相性が良かった。

示された内容をどう実現するか悩み、頭を捻り、思い浮かんだことを書き出しては直し、ピンと来たものを拾い上げて、『概念の型』を作る。

『概念の型』はカレンが編み出した技術であり、それも頭を掻き毟りながら試行錯誤した末の産物だった。

天の羽衣の時のように、誰かからヒントをもらえることもあったが、ヒントをもとにうんうん唸るのはカレンだけの仕事であって、大分苦しむがその結果成功を得られているなら、カレンの得意はそこにあると言ってもよかった。

ただ、そんな職人の仕事を通じて、カレンは他国の文化に触れることが往々にしてあった。

イメージを膨らませるのに、その国へと思いを馳せると、行ったことのない国への淡い憧れが浮き沈みする。

そこに、魔法使いの特権がささやかに、魔のように差した。

なりたいとは思わない、というのは正直なところだった。

なりたいと思って簡単になれるものでもない。

職人として未熟な自分が、道半ばで他のによそ見するのは移り気にも程があるため実行する気はない。

ただ、魔法使いになれた者は、カレンが想像することしかできない国を自分の目で確かめることができると思うと、それは、いいなあ、とカレンは僅かに鈍った足取りで歩いた。




そして現実もまた、余所見を許さなかった。

多忙でそれどころではなかったのである。


カレンが家に辿り着き、ポストから何通かの封書を抜き取った。

順に封を切っていくうち、最後の1通でカレンは顔を顰めて思わず声を出した。


「また鏡!?」


求められているのはまたしても鏡、それも美しいものは醜く、醜いものはさらに醜く憎々しく映るもの、と指定されている。

映った者の命を奪ったり爆発したりという類の危険ではないが、間違いなく心を傷つける悪意を持つ。

今度こそ、『何に使うのか』案件であったが、即座にこの案件は不可、と宣言できない最大の問題は、その依頼状が、仲介人によって仲介されたものだということだった。

首都在中のこの仲介人は、依頼を何度もカレンに届け、依頼人の無茶振りからの防波堤にもなってくれている、非常に世話になっているうちの1人だった。

その人が、このような黒に近いグレーな案件をそのまま寄越したということは、何らかの理由で彼が断れなかったことを意味していた。

カレンが、便箋と封筒とをくまなく探すと、手紙の最後、仲介人の署名の下に、ごく小さく


"遺憾"


と一言書き添えられていた。

カレンは丁寧なその字を見つめた。

あの、人が良さそうでいて容易に譲らない性格と、巧みな話術を発揮して、客に何とか依頼を下げさせようと奮闘する姿を想像した。

にもかかわらず、遺憾と書いてきたということは、相手が余程の権力者なのだろう、カレンは依頼人の、偉そうな名前を憎らし気に見つめた。

人道的な点を抜きにして、注文の鏡は、技術的には製作不可能というわけではなかった。

完璧に注文通り、はとてもではないがイメージ作りが成功する気がしないので、そういう意味では不可能だったが、勝手に働いた職業上の勘が弾き出した代案なら、結果的に同じ効果を得られる。

代案、つまり映った者に常に悪意を注ぐ道具にするのではなく、所有者の意図に沿うように映るものとして作る。

それならば、所有者が美しく映したいと思えば美しくなるし、醜く、と願うのは勝手であり、鏡そのものが悪意の器物というわけではなくなる。

そして困ったことに、思い付いてしまった以上、相手方にその代案を提示せずに、技術的に不可能という断り文句は使えないことになった。

カレンは、自分が嫌になった。

できないと嘘を吐けば済む話かもしれないが、これからも職人として食べていくことを考えると、それはどうしても憚られた。

"遺憾"と書かざるを得なかった仲介人のことを思うと、カレンの嘘で彼へ苦労を招くことは避けたかった。

その一方で、できることを断るのは職人として不覚悟だとか、世話になっている人に迷惑をかけてしまうとか、そういう懸念は全て捨てて断固として拒むべきではないのか、作る者の責任は考えないのか、そういう天秤の片方が頭の中で傾いていく。


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