(5)真実を告げる鏡③
カレンが注文書にサインをしていると、店主がそういえば、と口を開いた。
「陶器店の息子さんがとうとう魔法使いになったってね」
「ああ、次男さんですか?凄いですね、努力の賜物だ」
「ちっさい頃からずっと、なりたいなりたいって言ってたからなあ。立派になったもんだ」
この国には、魔法に関して3種類の関わり方があった。
魔法不使用者、魔法利用者、そして魔法使いである。
国民の誰もが、読み書きとともに魔法のかけ方の基礎を習うが、学んだことを大人になってから活かすかどうかは、人それぞれだった。
つまり、他の学問と同じように得意・不得意と向き・不向きがあって、適性が低く魔法から離れる者から、才能と努力とがうまく縒り合わさって魔法が人生の中心となる者まで、魔法との間には大小さまざまな距離が存在していた。
魔法使いとは、国内で魔法を操れる能力の頂点に立つ、華やかな地位の者であったが、到達が非常に困難で、誰もが目指せるわけではなかった。
また、地位を得た後も、その力を活かす場所もそれほど多くはない。
国内では、超常的な使い方が厳しく制限されており、杖を持つ特権は与えられるが、杖を人体に向けた時点で問答無用で捕まってしまい、みすぼらしい服をドレスに変えるとかそういうことは許されていなかった。
例えば水の呼び出しを得意とする魔法使いは、火事の鎮圧や上水道の管理くらいしか、日常的な活躍の場がなく、そういう仕事は非常に重要なものではあったが、磨いた腕の使いどころとしてはぱっとせず、力を持て余し気味になるのが常だった。
それでも、憧れる者が後を絶たないのは、魔法使いとして認められると、自由に国外に出ることができるという特権を手にするがゆえだった。
陶器店の次男も、外国に行きたいからというのを第一の理由にしていたという。
国の外との交流は、取引や手紙の遣り取りは特に制限なく行えたが、人の出入りは禁止されていた。
誰もが魔法を使える素地を持っているため、それが流出させないことで魔法の質と安全保障を、というのが国の言い分だが、それが正しい判断なのかどうかをカレン達には知る由もない。
ほとんどの国民は、日常生活の知恵の1つとして魔法が使える場面を試行錯誤して、これはという得意な魔法が見つかれば仕事に活かしたりする。
カレンも、魔力量だったり、コントロールだったり、どんな方面の魔法に適性があるかだったりをいろいろ試した結果、職人に至ったという、そう珍しくない道を辿ってきた。
ただ、外の世界を求めてやまない者は、国内での限られた魔法を良しとせず、努力に努力を重ねる。
そして、幸運にも魔法使いの地位を得られた一握りが、堂々と外の世界へと飛び立っていく。
もっとも、その一握りが潜り抜けたのは、あまりにも狭き門であり、憧れの対象にはなっても、誰もがその地位を得ようと本気になれるものでもない、というのがこの国での通常の感覚だった。
「アスターさんは魔法使いになろうとは思わなかったんですか?」
機会あるごとにとりあえず誰かに尋ねるのも、天気について言葉を交わすような、よくある会話の一幕であった。
カレンは曖昧な微笑みとともに答える。
「魔法使い?ないですねえ」
「ええ、なれるんじゃないの、魔法使い。アスターさんの腕なら粘れば何とかしちゃいそうだけど」
「いやいや、魔法使いになれるかどうかは才能もありますから。それに、私が杖を持って魔法を使うイメージ全然浮かばないし」
「またまたご謙遜」
店主はカラカラ笑ってから、
「あれ、でもそしたらお得意さんが1人いなくなっちゃうな」
「いなくなりますね、国外退去なので」
「じゃあ駄目駄目、やっぱり駄目。バーミアでこのまま頑張って、造形屋さん!」
一転して引き留めにかかられて、カレンは「よろしくお願いします」とおどけながら店を後にした。




