(5)真実を告げる鏡①
「真実を告げる鏡、かあ……」
作業部屋で依頼状の封を切ったカレンは、数枚の便箋を手に考え込んだ。
鏡に問いかけると、現在と過去に関することについて真実を語るものが欲しい。
未来予知は不要、語らせ方は、映った者の口が動いてもいいし、別な顔が現れても何でもいいが、問わないことを勝手に話し始めたりはしないように。
鏡面は楕円で寸法は胸より上が全て映るサイズ、貴人の部屋に飾るものなので、意匠は女神と果実のレリーフによる豪華なものがいい。
もちろん金縁を頼む。
指定は詳細にされており、確認が必要な抜けもない的確な依頼だったが、カレンは承諾の返信を書きながら、何でそんな鏡が欲しいのか、という疑問は頭から抜けていかなかった。
鏡を何に使うのかは、今回のイメージ作りには必要がない。
なので、客に尋ねる必要がないし、尋ねることもできない。
しかし、
どうするんだろう、本当のことを聞いて。
鏡として常時部屋に掛けているのなら、何かをピンポイントで知りたいということではないのだろう。
しばしば話しかけて真実を求めるのだろうか。
敢えて鏡を欲しがるということは、映った自分の顔に見惚れながら問うのかもしれない。
例えば、自分がどれほど美しいか、というようなことを。
カレンはぞっとした。
自分の評判を確かめて、よく怖くないなと呆れるとともに、それだけ自信に溢れていることを羨ましくも思う。
カレンなら、他人からどう思われているかなど恐ろしくて絶対に聞きたくない。
また、もし求める真実が、他人の個人的な話だったりするなら、私生活の盗み見・盗み聞きであり、それを罪に問う法がないだけで、間違いなく非難の対象になる。
しかしカレンは、そういう使われ方が懸念されるからという理由だけで、簡単に依頼を断ることはできない。
注文してくれる人あっての職人だからね、と依頼状を、机正面の額縁に掲げ、中央に浮遊し薄水色に発光するのを見守る。
カレンは、ものづくりの仕事を始めてからそれなりの年数は経たが、熟練と呼ばれるまでにはまだ道半ばであり、客が口伝えに受け取ったものの満足を広めてくれることで、新しい客に声をかけてもらえる糸口になる。
それを、技術的にできないとか、明らかに危険な依頼ならばまだしも、容易に断っては、あいつは断る職人だという評価が貼り付いて取れなくなる。
頼まれる方の立場は、決して強くない。
この国で食べていくためには、信頼を積み上げ、作り続けられることを喜びにしながら、仕事を続けていくしかない。
幸いカレンは、仕事にやりがいを感じ、頭を悩ませながらこつこつと作業することが性に合っているため、このまま腕を磨いていくのが自分の道だと思って働いていた。




