(4)玉手箱⑥
「失礼ですがこの、箱の使い方はどういう意図でお尋ねなのですか」
「まあそうですよね、お客様にはあまり聞かないですよね。他意はないんです。それはイメージ作りに使うんです」
「……イメージ作りですか?デザインの話?」
尋ねたスタンリーが、敬語を忘れた制裁を肘打ちで受け、脇腹にダメージを受けているため、ミス・アスターはレオンに向かって説明をした。
「いえ、デザインだけではなく。蓋を開けるまで中身が出て来ないし変化もしない箱なら、何か本当に大事なものを入れるのかなと。そういう、お客様が大事なものを閉じ込めておきたいっていう気持ちを、魔法に組み込めたらなと思いまして。
あと、人によって"大事な箱"の大きさとか、もちろんデザインとかのイメージが違うと思うので、その辺りも教えてもらえればなと」
2人とも、3点目を設定したいという彼女の意図だけは理解できたが、言っていることの意味はほとんど飲み込めなかった。
大きさは分かる、入れる物によって変わるからだ。
デザインも、文化や個人の好みによって変わって来る、ましてや今回は異種族である竜族だ、確認しないと突飛な箱ができたりするだろう。
しかし、『気持ちを魔法に組み込む』というのがどういうことなのかは全く分からない。
どんな魔法をかけるために、そういう情報が必要なのか全く想像が付かず、ただの職人のこだわりなのかもしれないと思ったりもした。
本当に作れるのか、という疑問さえぶり返して来た。
が、だからといって、他に手段がないレオン達には、ここで前言撤回という選択は決して選べない。
とにかく、見切り発車するしかなかった。
「あの……大丈夫でしょうか」
「善処します。いや、必ず仰った条件で契約いたします」
レオンはそう言い切り、ミス・アスターは「分かりました、ではよろしくお願いします」と頭を下げたが、その場でスタンリーだけは腑に落ちない様子で腕を組んでいた。
レオンがそれに気づいて、おい、と目配せすると、スタンリーは突然顔を上げて、「どうしても分かんないんですけど、気持ちを魔法に組み込むってどうやってやるんですか」と疑問を口に出した。
レオンが慌てて、おい、と声に出して留めようとしたが、スタンリーは
「だって聞いたことなくないですか、そういう魔法の掛け方って。アスターさんって、魔法を掛ける時にABCって唱えるって聞いたんですけど、ABCの中に呪文みたいに入れるんですか」
と爆弾的な疑問を炸裂させた。
今度こそ、客の前だという遠慮もなく頭に平手で容赦ない制裁を受けたスタンリーは、「痛って!」という悲鳴を上げたが、納得行かないというように、小声かつ早口で、レオンに向かって
「だって、首都圏の職人が皆あんなにできないって断ったんですよ。俺も、さっきアスターさんが『できます』って言った時はまるっと信じましたけど、気持ちを魔法に組み込む、って言われて不安になりません?何をどうやれば魔法になるんですか不思議に思いません?」
と捲し立てた。
一理はあった、レオンの内心にも生じた不安ではあった。
ただし、頼む側はこちら、契約の相手方であり、ピオネル社の客なのだ。
本人に尋ねるならもっと慎重に言葉を選び、恐る恐る質問すべきであって、スタンリーのように露骨に、不審いっぱいで投げつけるものではない。
レオンは、掴んだスタンリーの頭をギリギリと締め上げ、痛いと悶絶する声と抵抗を完全に無視し、これは終わったと思いながら、
「大変な失礼を申しました、部下の教育が行き届かず、お詫びいたします」
と垂直以上に頭を下げた。
テーブルに叩き付けるのは、客のテーブルなので辛うじて理性を働かせたが、スタンリーの頭も同じように一気に下げさせる。
ミス・アスターは、「あの、その辺で」と目の前の暴行にハラハラはしていたが、意外にあまり気にした様子も見せず、「いや、意味が分からないってよく言われるので大丈夫です」と空笑いをしていたが、ようやく頭を上げた2人に向かって、
「もしお時間があれば、見て行かれます?魔法の掛け方」
と控えめに申し出た。
「え、いいんですか?」
「いいんですか、じゃないお前もう喋るな。……あの、企業秘密ではないのですか」
「いえ、全然。正確には企業秘密のところもあるんですが、掛けるところなら問題ないです。どうされますか?」
スタンリーは専ら興味本位で、レオンはそれに加えてミス・アスターの能力を見積もるため、と動機は違ったが、渡りに船、で頷かないはずがなかった。




