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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(4)玉手箱⑤

レオンは落ち着いてきた息で改めて詫びを述べた。


「事前に御連絡せず、突然参って申し訳ありません。特急の案件だったものですから、手紙より、直接お邪魔した方が速いかと思いまして」

「先程の方々も同じことを言っておられました。あの、先程案件が同じだと仰っていましたが、同じ案件を複数の会社で取り扱われているんですか」

「ええ、同じ元請けから仕事を回されているもので」

「それは随分、何というかその、大変ですね……」


レオンは、振る舞われたカップを手に取り、走って乾いた喉を茶で潤すなり、対面に腰を降ろした家主に尋ねた。


「あの、早速で申し訳ないのですが、彼らの依頼は、どうされましたか」

「ええと、どう、とは」

「お引き受けになりましたか、それとも断られましたか」


すると、眉を下げたミス・アスターから返って来たのは、できるから引き受ける、作れないので断るという予想からずれた、


「条件が合わなくて、依頼主に確認が必要だと言われたので、一旦お断りしました」


という答えだった。


「条件、と言いますと」

「ええと、納期とかそういう細かいところで折り合いが付かなくて」

「問題は、納期だけですか?」

「まあ、仕事の進め方のところも噛み合わなかったりしたんですが」

「大変失礼ですが、その、作れる作れない……ではなく?」

「ではないです。非常に急いでいるので最優先の仕事にしてもらいたいというお話だったんですが、私も他の注文を受けていますので、そこを飛び越して、というのはちょっと……」

「保留ではなく、断られたのですか」

「ええ。どうしても最優先にしてもらいたい、ということだったので。一応、元請けに確めてくるとは言われたのですが、入るかどうか分からない注文のために、今後の予定を空けていられないので。申し訳ないですが、と」


そこでスタンリーが、「アスターさんは、依頼品、タセル社の奴らが説明した箱の話なんですが、それって作れるんですか」と口を挟んだ。

いつもなら、言い方が直截的で敬語がなっていないと指導するところだが、その質問が、レオンにとっても関心事でありすぎ、注意する意志を飲み込んでしまった。

固唾を飲む2人の前で、ミス・アスターは「中に込めたものの時間を止める箱ですよね」と確認をした上ではっきり、


「作れると思います。前に似たような依頼を受けたことがあるので」


と頷いた。

レオンとスタンリーは素早く顔を見合わせて、今後の方針を目配せで確認した。

彼女は、試しにやってみる、ではなく、作れると言い切った。

しかも、一度作ったことがあるとも言った。

保証は彼女の発言以外存在しないが、今のところ他に当てがないこともあり、もはやこの仕事は彼女にしかできない、もとい彼女になら成せる気になっていた。

レオンが、「では、我々ピオネル社は、正式に貴方に製作依頼をさせていただければと思います」と目を合わせてはっきりと申し込んだ。

ミス・アスターは戸惑いを表す。


「でも納期等々は同じなのではないのですか。その、同じ案件なんでしょう」

「大丈夫です、その点は元請けを必ず説き伏せます。引き受けていただいた場合、納期はいつになりますか。他に条件はあるでしょうか」


タセル社が示した難色は、そのままレオンとスタンリーにも横滑りしてくるが、そんなことは何とでもするし、何とかすればいい。

立場は弱いが、元請けとは付き合いは長い、その肩を掴んで揺さぶるくらいのことはやってみせる、社長が。

ミス・アスターがそれでは、と示した条件は3点あった。


・依頼を正式に手紙、書面で送ること

・納期は、今引き受けている仕事に目処が立つ1か月後になること

・納期までの間に、箱に何を入れ、どう使うつもりなのかの情報を知らせること


1点目は、職人達が約束を反故にされないための備えとして、最近求められるケースが増えているため問題はない。

2点目は、元請けを通じて依頼主を説得すると腹を括ったが、3点目は理解が追い着かずに頭を悩ませてしまった。

危険物ならばいざ知らず、客の注文品の用途を尋ねるとは、随分と踏み込んだ要求だなと、レオンが眉を寄せて沈黙していると、抵抗を感じ取ったのか、ミス・アスターは申し訳なさそうに


「すみません。タセル社さんの時も、そこでも引っかかりまして」


と付け加えた。


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