(4)玉手箱④
後でまたとは言われたが、タセル社がどのくらい長っ尻するのか読めず、家の前で待つとただの不審者になってしまうため、ピオネル社の2人は仕方なく、商人街まで戻り、食事がてら小さな喫茶室で、食事かねがね時間を潰すことにした。
昼時を大幅に過ぎていることもあって、喫茶室には他の客はいなかった。
建物は年月を感じさせて、首都のような洒落た場所ではないが、料理は量が多くて味もなかなかであり、長距離を移動した分の消耗が補われる気がした。
「お2人は外の人?お仕事ですか?」
一服していると、食後の茶をふるまいに来た、店主の妻らしい年嵩の女性が話しかけてきた。
「ええ。職人街に」
「遠くからいらしたんですか?」
「首都からです」
「あら首都から!それはご苦労様ですね、遠かったでしょう」
「まあそうですねえ、馬車移動ですから。こいつは腰に爆弾抱えてるので」
「あらそれは大変だったでしょう、移動手段はなかなか改善されて来ないものねえ」
話好きそうな婦人に、レオンはふと思い付いて、「俺達、ミス・アスターのところに来たんですよ」と言ってみた。
この後本人とも面会するが、腕はどんなものなのか、地元での評判も仕入れておきたかった。
幸いにも、婦人は彼女を知っていて、「あら、カレンちゃんのところなの」と親し気な様子を見せた。
「お知り合いですか」
「まあ小さな町だからねえ、うちは飲食業だからお客さんは皆知り合いみたいなものよ」
「なるほど。それはいいですね」
「ものづくりのお仕事かしら?カレンちゃんは腕の良い造形屋さんだから、何を頼んでも大体作れちゃうわよ」
「造形屋、ですか」
「ええ。この辺では熟練の職人さんを造形屋って呼んでてね。でもそうなの、首都でもカレンちゃんが有名になっているならそれは嬉しいわ」
レオンとスタンリーはそろりと顔を見合わせた。
情報が正しいと裏付けられるのは幸いだが、ミス・アスターが依頼品を作れる公算が高いとなると、これはまずい、タセル社が手柄を攫うのではと冷や汗が流れる。
やはり強引に居座った方が良かったと歯噛みしながら時計を見ると、入店してからまだ30分ほどしか経っていない。
どのくらい待てばタセル社が去るか分からずに離脱して来てしまったが、これは一刻も早く戻った方がいい、と2人は黙ったまま頷き合うなりすっくと立ち上がった。
茶を飲み干し半ばコインを投げるように支払いをして、「あらら、忙しないこと」と見送る女性におざなりの礼を言うと、店を飛び出した。
*
最初は早歩きだったのが、アスター宅に近づくにつれ速度を増し、門柱の中には全力で駆け込む状態だった。
息が整うのも惜しんでノッカーを2度3度打つ。
程なくして出て来たミス・アスターの後ろ、室内には誰もいないようで、クリフとミックはもう辞去した後と思われた。
「先程は、大変、失礼、いたし、ました」
ぜえぜえ言いながら示し合わせてレオンは直角に、スタンリーは腰を気にして若干浅めに頭を下げると、ミス・アスターは慌てた声で、
「いえあの、こちらこそ取り込み中ですみませんでした」
と中へと2人を導いた。
誘われてリビングに入ると、ミス・アスターが狭いと言った通り確かに部屋には広さがなく、ローテーブルの両脇のソファも、1人用と2人用が1台ずつと、客は2人までしか受け入れられないものだった。
しかも、ここは自宅兼工房と思われたが、女性の家主に初対面の男4人では、中に全員入ったら恐怖の対象だっただろう。
居座らないのがある意味正解だったかも、と密かに胸を撫で下ろしていると、奥からミス・アスターがティーセットを持って来た。




