(4)玉手箱③
「何してんだ、こんなとこで」
ミス・アスターの後ろから現れたのは、タセル社のクリフだった。
奥から、「あれ、レオンさん?」と、同社に所属しているミックの呼びかけも聞こえてくる。
タセル社は、レオンとスタンリーのピオネル社を同じく、下請け的地位に甘んじている小規模な会社であり、基本は商売敵であり、笑顔で相対しながら腹を探ることもしばしばあったが、元請けから重しを乗せられた同じ境遇同士、仲は悪くなかった。
しかし、今ここにこの2人がいるというのは、黙ってはいられない状況だった。
タセル社にも、元請けから同じ指示が行っているはずで、だとすればこの2人がバーミアに来ている理由は1つしかない。
タセル社も、誰かからABCの女なら依頼をこなせるかもという情報を得ていたのだろう。
先を越された、とレオンは歯噛みをしたが、すぐさま悪知恵という名の処世術を引き摺り出してフル稼働する。
首都圏の熟練者から異口同音で、できるかも、と名指しされたことで、達成の可能性は大分上がった。
もし、このABCの女ができないと言うのであればこのまま引き下がった方がいいが、万が一できるという場合、手柄をタセル社に取られる。
みすみす食い扶持を失うわけにはいかない、とレオンは、「お知り合いですか」と訝し気なミス・アスターに対して、ええと軽やかに頷いてから、
「実は我々も彼らと同じ案件で伺ったのです。一緒にお話を聞かせていただけないでしょうか」
と如何にも申し訳なさを滲ませながら申し出るという手段に出た。
レオン達のやり口を知っているクリフが憤りを隠さず、
「ちょ、レオンそれ反則だろ!」
と嘴を挟むのを綺麗に無視して、
「そうすればお手間を2度も取らせないで済みますし、アポ無しで来てしまったので、あまりお時間を割いていただくのも申し訳なくて」
と付け加えて頭を掻く真似までする。
実際、同じ用件で訪れているなら、断られるなら同時の方が手間が省ける。
そのまま、さっき乗って来た馬車の折り返しでとんぼ返りができ、スタンリーの腰は大変なことになるかもしれないが、ピオネル社で次の作戦を立てられる。
もしかすると、今この時に別な職人情報が、社に入って来ているかもしれない。
それに、もしラッキーにもできると言われてしまったら、それはその時考える、とレオンは腹を括っていた。
こういうやり口は、元請けも下請けも使う常套手段であり、クリフが蔑んでいようと、慌てて寄って来たミックがそこまでやるかと幻滅の表情を浮かべていようと、立場が変われば2人も平気で使ってくるものなので、一切動じる必要はない。
レオンは数々の難局を乗り切って来た、人の好さそうなと言われる笑みを浮かべていたが、残念ながら首都よりも時間の流れが緩いバーミアに住む、ミス・アスターには、作戦は通じなかった。
「あの、それはちょっと。部屋が狭くて物理的に入れませんので。後でまたいらしてください」
企みは、ABCの女によって打ち砕かれ、鼻の先でドアが閉ざされたのだった。
約束なしの上、先客がいるのに押し入ろうとして、玄関先を騒がせた訪問者となった2人は、
「レオンさんのせいで第一印象最悪になったんじゃないですか、これ」
「お前何で他人事なんだよ」
両手を頭の後ろに組んで、憐れむように言うスタンリーの脳天に、レオンは容赦ない手刀を落とした。




