(4)玉手箱①
「や、やっと着いた……マジで遠い、腰が痛え」
「そこまでは遠くなかっただろ。運動不足なんじゃないのか」
馬車から降りるなり、停留所の柱に縋り付いて動けなくなったスタンリーに、上司のレオンは御者へ代金を支払いながら言った。
「運動じゃどうにもならねっすよ腰は。爆弾抱えてるのと同じなんすよ」
「でも筋肉で支えるしかないって言うだろ、このままジジイになったら多分もっと酷いぞ」
「それはそうなんすけど、実際やるってなったらなかなか。あー、途中でもっと伸ばしとけば良かった……」
馬車と言っても、もちろん金持ちが使うような4頭立ての箱型ではなく、幌無しの安い馬車であり、乗り心地はもちろん良くはなく、スタンリーのように腰痛持ちでなくとも、身体を痛めることもしばしば起こった。
その上、3時間半の道のりで大分砂埃と親しくもなっており、2人とも服は払ったが、口の中にはざりざりとした不快感を噛んでいた。
しかし、絨毯だと腰は大丈夫かもしれないが、速度が遅すぎるのと、布の上だと不安定感が出て寛げず、遠距離移動に全く向いていない。
早く、魔法で移動手段の方も改善されて来ないものか、と辟易しながら、レオンは辺りを見回した。
苦労をして訪れたこの町、スタフィー州バーミアは、州都ではないこともあって、人の混んでいない、長閑な、首都圏に住んでいる者からすれば典型的な田舎町というのが、国民の普通の認識だった。
取り立てて特徴のないこの町は、人口は中の下だったが、そのうち職人の割合が他と比べると若干高い。
そしてその中に、腕利きと噂され、彼らのミッションをやってのける技術を持っているかもしれないということで、2人は真相を確かめるために面会を求めてはるばるバーミアにやってきたというわけだった。
レオンとスタンリーは、ピオネル社という、いわゆる下請けの立場にある代理店の勤め人だった。
主として元請けから、これをやってくれ、あれを頼むと受けた注文通りに、交渉やら取次やらをこなすため駆けまわる。
今回、2人が田舎くんだりまで出向く羽目になったのも、元請けが、貴人である竜族からの依頼を、何としても完遂させたいと旗を振ったためだ。
依頼内容は、"箱の製作"ということであり、最初は、元請けが首都圏で実現可能そうな人材を手持ちの職人リストから抽出し、下請けと手分けして、引き受けてもらえるか交渉に回った。
竜族から十分な報酬を提示されており、元請けと下請けの懐に入る分を差し引いても、製作者もかなりの収益を得られるという好条件だったが、依頼内容を聞くと、職人のほとんどが首を振った。
試作してみると手を挙げる職人もいたが、何度か失敗して最終的に辞退する、ということが何度も繰り返された。
首都圏で、できそうな職人は大体当たったという元請けには、下請けを駆使するという手札しか残されていない。
駆使、つまりレオンとスタンリーが今バーミアを訪れているように、噂や伝手を辿ってしらみ潰し、である。
しかも悪いことに、元請けの旗振りは2人が所属する代理店だけにされたのではない。
元請けが、日頃からパイプを繋げるという名の、使役関係にある複数の店に同じミッションを与えた。
成功報酬制の下請けはたたでさえ立場が弱いというのに、成果が早い者勝ち、下請け同士で競い合わなければならないというのが実に嫌らしい。
依頼主からは矢の催促が来ており仕方ないのだ分かって欲しい、ということだったが、謝罪が上辺だけなのは下請けの誰もが知っていた。
知っていて、表立っては誰も文句を言わず黙って従う。
競争に勝てれば実入りは大きいし、下請けの代理店もその従業員も食っていかなければならないからだ。




