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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(3)天の羽衣④

ひらひらして、ふわーっと、か。

書き言葉を探すため、カレンは結局また図書館で本を漁っていた。

歴史や文化の文献という固い方から攻めた結果、1回目はイメージを掴めなくて失敗した。

知識は増えてそれはそれで有意義だったが、天の羽衣だけでなく、天女の存在ももっと近くに感じるようにしないといけないのかもしれない。

天女の国は天上にあり、大地に住む者達の崇拝の対象だと、最初の挑戦時に読んだ本に書かれていた。

国が天にあるというのはさすがに比喩で、高地にある国で、かつ支配層に属しているという意味なのだろうと思うが、最高の美を持つ一族として、平野に住む者に憧れを抱かれている、そういう女神的なものだと思えばいいのかな、あるいは妖精とかそういうものなのかな、と考えを巡らせる。

カレンは天女の物語が書かれた児童書を、ひらひらして、ふわーっととぶつぶつ唱えながら、とにかく軽やかなイメージを拾い上げるよう努力した。

児童書は、男が羽衣を隠し、帰れなくなった天女を妻に迎えるが、数年経って羽衣を見つけた天女が、男を置いて国へ帰る話だった。


男は羽衣に目が眩んだのか、天女を引き留めたくて羽衣を隠したのか、本当はどっちなのだろう


抱いた感想に、ひらひらとふわーっとを練り混ぜながら、カレンは再びメモ起こしをし、『概念の型』の試作に取り掛かった。

そしてその結果、


「お騒がせしました……」

「あたしは別に心配してなかったけどね。アンタはやればできる子さ」

「子、って歳ではないですけど、できて良かった……」


エマの工房で、その手に乗せられた、見本品はもうないため麻糸ではあったが付与が成功した糸束は、まだ織られてもいないのに、ひらひら、ふわっと飛んでいきそうな魔法の流れを感じるものに仕上がっていた。

これは誰が織っても見事な布になるだろう、自分が織るならなおさらだ、とエマはしげしげと糸束を眺めた。

カレンの型は完成したので、後は天女が必要数の糸を届けてくるのを待ち、カレンが魔法を付与して、エマが織り上げるだけだ。

仕事の開始が、急激に現実になってきたエマは、中堅だが自分よりは大分年若い職人を頼もしく思うとともに、織り師としての職業意識を刺激され、


「これっぽっちじゃたかが知れてるけど、サンプルで織ってみるかい。糸は成功してても、布にするとどうなるか見といた方がいいだろ」


とモードを切り替えた。

カレンはぱっと明るい顔になりながらも、「実はそれをお願いできないかな、と思ってたところでして」と顎を引いた。

エマがわざとつっけんどんに


「何遠慮してるのさね、そういうことはちゃっちゃと言いな。仕事の話なんだから」


と告げると、気心の知れているカレンは「ありがとうございます」と声を弾ませた。

エマは、こりゃ良い仕事になる、と小型の手織り機で早速試作にかかった。


できた布は、素材が麻でしなやかさに欠けることと、人の身体を宙に持ち上げるのには面積が足りないのを除けば、カレンの型通り、天女の注文通りの効果が付与されていて、仕事をこのまま進めて大丈夫だという保証を得ることができた。

後日届いた何束かの糸に、カレンは『概念の型』で抜いた魔法を付与し、エマが心を込めて織り上げると、商品であるため絵の通りに纏ってみるわけにはいかなかったが、カレンとエマが息を飲み黙って顔を見合わせたほどに美しく仕上がっていた。

触れている者に体重があることを忘れさせ、空へ上がろうという誘いを感じる。

カレンが梱包して箱に蓋をするまで、その誘いが続くほどだった。

これは、あの児童書の男が、天女よりも先に羽衣に惚れた説もあるかもしれない、とカレンは少し恐ろしく感じながら、品物を送り出した。



この注文は、久しぶりに失敗をして冷や冷やしたが、エマの助言で挽回ができたこと、『概念の型』の作り方について、頭でっかちではなくしなやかに考えなければならない時もあることを学んで、非常に勉強になり、また自分がまだまだ未熟だと改めて感じる結果にもなった。

ただ、カレンにとって鬼門だった布について、理解ある客のおかげで、少しだけ歩み寄れる機会になったのは確かだった。


もっとも、その理解ある客、もといその客が所属する国という名の組織の上役達が、羽衣の出来にあまりに感動し、王宮の者全員に回るよう、ぜひあと800枚お願いしたいと依頼文を寄こし、家が庭ごと埋まりそうな糸を送り付けられそうになって、大変な目に合ったのだが。

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