第三話:世に渡れ,悪と罪を切断ちる炎
ウイシッユバトル第一戦に勝利したヴォイドは会場から退去した後、帰り先である宿屋メイティに戻った。胸中に去来するのは、激戦の余韻と、何よりもメイティ兄妹に吉報を届けるという使命感だった。宿屋メイティの中では、座るウォクと立つリリィが、希望と不安がないまぜになった表情でヴォイドの帰りを待っていた。店の窓から差し込む夕暮れの光が、二人の顔に長い影を落とす。どれほどの時間がそうして過ぎただろうか。その時、微かに、店の前の道に人影が見え始めた。影はやがて男の輪郭をはっきりとさせ、迷いなくドアをすり抜け、「ただいま」という声が店内に響き渡った。
「ただいま…」
その声に、ウォクとリリィははっと顔を上げた。期待に満ちた視線が、一斉にドアに向けられる。そこに立っていたのは、まぎれもなく彼らが待ち望んでいた男、ヴォイド・シェラウトだった。ヴォイドの無事な姿を目にした瞬間、兄妹の心にあった不安や悲しみは、堰を切ったように喜びへと変わった。リリィは衝動のままにヴォイドへと駆け寄り、その胸に飛び込んだ。抑えきれない安堵と喜びの涙が、ヴォイドの服を濡らす。ウォクは、そんな二人の姿を傍らでただ静かに見守っていた。彼の表情にも、張り詰めていた緊張が解け、深い安堵の色が浮かんでいる。
「ただいま…」
ヴォイドはもう一度、その言葉を噛みしめるように繰り返した。リリィがあまりにはしゃぎすぎていることに、ヴォイドは少しばかり状況を掴みかねていたが、それでも二人の顔に浮かぶ心からの安堵を見て、彼の胸にも温かいものが広がった。リリィの背中を優しく撫でながら、彼は語りかける。
「心配かけちゃったな、ごめん…でも俺は大丈夫だから。」
その言葉は、リリィの心をゆっくりと落ち着かせた。しばらくして、リリィの嗚咽は止み、ヴォイド、そしてウォクと一緒にテーブルを囲む。温かい紅茶の湯気が立ち上る中、三人は静かに、しかし確かな喜びを分かち合いながら、対戦の結果とこれからのことについて話し始めた。
ウォクの問いに、ヴォイドは一言、と答えた。
「それで、対戦の結果は?」
「見た通り、勝った」
その言葉に、兄妹は目を見張った。ウォクは思わず声が上ずる。
「勝った?!あのプリテンダー商会に?!」リリィもまた、信じられないといった様子でヴォイドを見つめる。ヴォイドは二人の驚きを予想していたかのように、静かに続けた。
「ああ、勝った。勝利したおまけとして、プリテンダー商会から君たちの店、宿屋メイティの経営権を取り戻した。それに、今後一切君たちに危害を加えないように要求した。」
その言葉に、兄妹の顔に驚きから歓喜へと変わる光が灯る。
「それでつまり…」
ウォクが確認するように問いかけると、ヴォイドは「ああ…もう大丈夫ってこと」と、確かな口調で答えた。その瞬間、長らく宿屋メイティの上にのしかかっていた重い雲が、一気に晴れ渡ったようだった。リリィは「やったねウォク兄!」と声を上げ、ウォクもまた深く頷く。宿屋メイティに再び平穏が訪れる。しかし、その喜びの余韻に浸る間もなく、ヴォイドは立ち上がった。まるで当然かのように、その場を去ろうとする彼に、ウォクは戸惑いながら声をかけた。
「では俺はもう用事が済んだので、これで……」「やはり去るつもりか…これからの予定はあるの?」
ウォクの問いに、ヴォイドはぼんやりとした顔で、少し考えるように言葉を探した。その顔には、勝利の達成感とはまた別の、ある種の虚無感が漂っているかのようだった。
「わかんない、今回は君たちからの頼みに応じただけだから、やることがあった。」
ヴォイドの言葉には、目的を失った旅人のような響きがあった。彼はもう、何か特定の場所へ向かう理由を持たない。
「まぁ、いつものように、どこかに流されればいいさ。」
そう言って、ヴォイドは宿屋のドアへと向かった。再び一人きりの旅に出る彼に、ウォクとリリィは言葉をかけることができなかった。しかし、彼らの心には、確かにヴォイドがもたらした希望と、その優しい強さが深く刻まれていた。ウォイドは再びドアをすり抜け外に出た。その時、熱風に混じった斬撃がウォイドに向かって襲いかかり、ウォイドは斬撃に気づき無意識に避けた。ウォイドは斬撃が放たれた元に視線を向け、そこには和風模様の火がデザインされた羽織りを羽織り、刀を片手で持ち、ゆっくりとウォイドに向かって歩みを進める男がいた。店の中にいたメイティ兄妹もその音の響きに釣られて、外の様子を見るために出てきた。
「なになに、何があったの?」
男はウォイドに向かって「君、俺と戦ってくれ!」と尋ねた。ウォイドはその男に「お前は誰、と言うつもりか?」男はウォイドの質問に対してうっかりしていたと感じたので、自分が一番かっこいい自己紹介を勝手に名乗り始めた。
「あ!そうだ、名乗らなくちゃダメだ、礼には礼だな!」
「俺は世に渡り、悪と罪を断ち切る炎!えっと…あぁぁ!そう!斬炎、俺は斬炎だ。どうだ、かっこよかっただろ。」
呆れたような雰囲気のウォイドとメイティ兄妹。ウォイドは「で、何しに来たんだ」と斬炎に問いかけた。斬炎はハッと我に返り、目的を思い出した。
「そうだ、思い出したぞ!お前、ヴォイド・シェラウド…でだけ?確か無欲者を名乗った、お前のその強さに興味湧いた。欲望がないのに異能を使えるなんてな、**黒洞**とか言ったか?」
隣で斬炎がウォイドの異能について話しているのを聞いたメイティ兄妹は驚き、ウォイドに尋ねた。ウォイドは確かにそうだ、と答えた。斬炎は続けて「だから、俺と戦ってくれ!」と言ったが、ウォイドは興味なさそうに「興味ないね」と答え、立ち去ろうとした。その時、斬炎は「そんなに興ざめするなよ!」と言いながらウォイドに斬撃を繰り出した。しかし斬炎の斬撃は外れ、メイティ兄妹の方へと飛んでいった。ウォイドはそれに気づき、素早く兄妹の前に移動し、**黒洞**を使って斬撃を吸収した。そして、突然真剣な表情になったウォイドは斬炎に向かって「部外者に攻撃するのはどう言うつもり」と問い詰める、その場の空気は一気に張り詰めた。その時、突然誰かが「泥棒ー!」と大声で叫んだ。
叫び声を聞いた瞬間、ヴォイドと斬炎の表情が同時に変わった。張り詰めていた二人の間の緊張感が、一瞬にして共通の目的に向かう集中へと切り替わる。
「おい、あれで勝負だ。先に捕まえた方が勝ち、俺様は行くぜ!」
斬炎はそう叫ぶと、火を模した羽織りを翻し、目にも止まらぬ速さで駆け出した。その動きは、まるで炎が地面を滑るかのようだ。ヴォイドもまた、一瞬の躊躇もなくその後に続く。彼の動きは斬炎ほど派手ではないが、無駄がなく、地を蹴る足は驚くほど静かだった。
メイティ兄妹は、突然の展開に呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我に返り、二人の背中を見送った。
「ヴォイド、頑張って!」
「ヴォイド兄ちゃん、がんばれ!」
「ついでに斬炎も…」
街の通りは夕暮れ時で、多くの人々が行き交っていた。泥棒たちはその人混みを盾にするように、器用にすり抜けていく。彼らは細い路地へと逃げ込み、さらに複雑な迷路のような裏道を駆け抜けた。
泥棒は二人組。兄貴分のローゲンと弟分のカメロンだ。彼らはただの泥棒ではない。カメロンが持つ異能「迷彩潜り(ヴィジュアールステープ)」は、30秒の時間の間て、光学迷彩によって体の色は透明化して、物体や人影の中でひっそり潜り、移動できる能力だ。一方、兄貴分のローゲンは「奪取」という異能を持つ。これは、周り3m以内の特定の物体をロックオンし、30秒間の時間の中で自由自在に操れる能力だ。彼らはこの二つの異能を連携させ、警備隊を幾度となく翻弄してきたのだ。
「へへ、どうだ。この異能がある限り、俺たちを捕まえることはできねえぜ!」
斬炎は持ち前の身体能力で、屋根伝いに飛び移ったり、壁を蹴り上げて高所からショートカットしたりと、アクロバティックな追跡を見せる。しかし、カメロンが姿を消すたびに、彼は舌打ちをした。
「チッ、姿が消えた!厄介な能力を使いやがって!」
一方、ヴォイドは地面を走り続けた。彼の追跡はより冷静で、泥棒たちの影の動きを注意深く観察していた。時折、彼の目の奥に微かな輝きが見え隠れし、それがカメロンの移動ルートを予測しているようだった。
その時、ローゲンが後ろを振り返り、追いついてきた斬炎に向かって不敵な笑みを浮かべた。彼の瞳が怪しく光る。その瞬間、斬炎の首に巻かれたスカーフが、まるで意思を持ったかのように宙を舞い、斬炎の首を強く握しめて、その後はローゲンの手元へと吸い込まれた。
「けっほ………!なんだと?!」
斬炎は一瞬の出来事に呆然とする。そして、すぐに怒りが込み上げた。
「卑怯な真似を…!こんな卑劣なことしか出来ない、悪人は所詮悪人た!やっぱりお前たちには存在する価値はない!」
斬炎の怒りの言葉に、ローゲンは笑いながら応じた。
「存在する価値がないだと?お前だで同じじゃない?俺たちの異能(願い)は、この世界で生き抜くための手段だ!お前の方こそ、力を持て余して、異能を使い、他人を叩くに通じて、存在感を探してだ哀れの人間じゃないのか?!正義を被らしているだけの奴に、俺たちの苦労がわかるものか!」
ローゲンの言葉に、斬炎の表情がさらに険しくなる。彼の心には、過去の記憶が蘇っていた。かつて、彼の故郷が襲っわれた。異能を悪用する悪人が斬炎の家族を奪い、家を焼き払った。その時の記憶が、ローゲンの言葉と重なり、彼の怒りを増幅させる。
「…黙れ!お前に言われ筋合いはない、おどなしく掴まれたまい!」
その時、カメロンが再び姿を消し、二手に分かれて逃げようとした。ローゲンは右の路地へ、カメロンは左の路地へと逃げようとする。
「チッ、分かれたか!」
斬炎が一瞬どちらを追うか迷ったその時、ヴォイドの声が傍から響いた。
「俺は右に行く、あの透明人間は俺に任せろ、お前は左に行け、そんな相手くらい、お前は対用出来るだろ。」
迷うことなく指示を出すヴォイドに、斬炎は「誰がてめぇの言うことなんか聞くか!」と吐き捨てながらも、ローゲンのいる左へと走り出した。ヴォイドは右へと向かうカメロンを追うべく、さらに速度を上げた。二人の間には、明確な協力関係はない。ただ、勝負に勝つため、そしてそれぞれの信念のために、別々の道を追う。
カメロンは自分の異能「迷彩潜り(ヴィジュアールステープ)」を駆使して、人気のない、薄暗い倉庫街へと逃げ込んだ。鉄骨が組まれ、積み上げられた荷物の影が不気味に伸びる場所だ。彼は倉庫の隙間を縫うように逃げ回り、ヴォイドを巻こうとするだが彼の体力も僅かしか残ってない。
「そこまでだ。」
カメロンの動きが一瞬止まるその時、ヴォイドの声が、泥棒の背後から響いた。泥棒が振り返ると、そこにヴォイドが立っていた。いつの間にか、泥棒の背後に回り込んでいたのだ。彼の顔には、追跡の疲れは見られない。
泥棒は絶望的な表情を浮かべ、最後の抵抗とばかりに、増幅された色の光でヴォイドを包み込む、目昏し、気絶させようとする。だが、ヴォイドの目の奥に黒洞ブラックホールが強く輝いた瞬間、カメロンの放った光はまるで虚空に吸い込まれるかのように一瞬で消え失せた。
「なっ…!?」
驚きに固まるカメロンの腕を、ヴォイドは無言で掴み、地面に押さえつけた。その動きは流れるようで、一切の無駄がなかった。
「てめぇ、どこまで逃げるつもりだ!」
その時、遠くから斬炎の声が聞こえてきた。彼は刀を鞘に収め、もう一人の泥棒、ローゲンを引きずってくる。ローゲンは斬炎の炎の力に焼かれたのか、服は焦げ、顔には煤がついていた。
「くそっ…俺が、こんな…!」
斬炎は、ローゲンの頭を掴みながらヴォイドの前に放り投げた。
「おい、ヴォイド。勝負は俺の勝ちだ。」
斬炎はそう言って。
「ああ…そうだな。君がの勝っちにしよ、それでいい…」
ヴォイドは静かに答えると、カメロンを解放し、立ち上がった。二人の泥棒は、駆けつけてきた町の警備隊へと引き渡され、市民も財産が戻ってきたことに喜んでいる。
「ふぅ、これで一件落着だな!」
斬炎は満足げに腕を組み、ヴォイドに話しかける。
「…で、邪魔も入らなくなったことだし、さっきの話の続きしよ?君にはまだ聞きたい話しがいっぱいあるのでね…」
斬炎が再びヴォイドに戦いを挑もうと口を開いたその時、ヴォイドは静かに彼の言葉を遮った。
「…悪いが、まだ別の日にしよう。それに…」
ヴォイドは、ちらりと斬炎の羽織りを見た。火を模したそのデザインは、追跡中に受けたであろう、いくつかの擦り傷や汚れがついていた。
「…お前も、少しは休んだ方がいい。ケガしてるじゃない。俺について来い、ウォクとリリィに頼んでお前の傷を手あてする」
そう言うと、ヴォイドはゆっくりと背を向け、再び宿屋メイティの方向へと歩き始めた。斬炎は一瞬あっけにとられたが、やがてフッと笑みをこぼした。
「へっ、まさか心配してくれてるのか?悪くないな、お前!…それに、さっきの言葉…」
斬炎はそう言い残し、ヴォイドの後を追うように歩き出した。彼の顔には、先ほどの追跡戦の興奮と、そしてヴォイドという男への新たな興味が入り混じった表情が浮かんでいた。
宿屋メイティの前では、メイティ兄妹が心配そうに二人を待っていた。彼らの姿を目にすると、ヴォイドと斬炎の顔に、わずかな安堵の表情が浮かんだ。
「ヴォイドさん!無事だったんですね!」
「お疲れ様でした!」
リリィが駆け寄り、ウォクもまた深く頭を下げた。ヴォイドは二人に軽く会釈をすると、宿屋のドアを開けた。斬炎もそれに続いて店内へ入る。
「さて…改めて、店を取り戻した祝いと、泥棒捕獲の祝杯だな!」
ウォクが嬉しそうそうに言う、リリィは満面の笑みを浮かべた。
「はい!温かい紅茶をご用意します!」
静かながらも確かな絆が深まった夜が、宿屋メイティに訪れようとしていた。斬炎はテーブルに座りながら、ヴォイドの横顔をじっと見ていた。この無欲な男は、いったいどこから来たのか。そして、この街に隠された闇を、彼はどこまで知っているのだろうか。
一方、静かな夜の刑務所で掴まれた二人の泥棒、ローゲンとカメロンはお互いを不満し睨み合った。
「ほら!まぁぁだ捕まえた!もう何度目?兄貴に計画任せたら、いつもこうなる、もう兄貴についてらんない!」
「ボケがお前!との口聞き方してるんだ?俺がいなければ、お前は溝のネツミのまんまんだ!お前だて、なぜそこでビビた、お前が素早く潜逃げばいいさ。」
「じゃ兄貴がやれよ、あのブラックホールみたいな吸引力から!あいつの前では異能が使い得ないだぜ!」反論するカメロン。
「ブラックホール?!それは……」弱気になったローゲン。
「ほら兄貴も出来ないでしょう?!」疑うカメロン。
「いえ、もっと力があれば!そうだ俺とお前の異能が混ざれば良い、そうすれば勝てかも…」ローゲンを考えた。
「ほんとか?とうやる?」尋ねる
「分からん!でもそうすれば、俺たちの願いが叶う気がする。」自信が湧いたローゲン。
その時ウィンドブレーカーを来ている謎の男が急に現れて「お困りようだな、助ける必要がある」と尋ねる。困惑する二人の泥棒。でも男は返事聞かずに強制的に謎のエネルギーを二人の泥棒に充入、泥棒たちが悲鳴をあげた、そしてその悲鳴は静かな夜の中で響渡だ。