ファイル0:願いの底(プロローグ)
願い──それは、誰もが生まれながらに持つ本能であり、この世界を駆動させる目標だ。「何かをしたい」「何かを手に入れたい」。人によってその願いは、どんな形にも成り得る。
空を飛びたいと願う者は、身に翼を穿ち、自由のままに何処へでも行ける。身体的な病を癒やし、あるいは病そのものをこの世界から根絶すること。その些細な選択一つで、未来は無数に分岐する。人の選択によって、それは悪意に満ちた絶望の未来にも、幸福に満ちた楽園の未来にも、辿り着く可能性が充分にある。
だが、俺には「欲」がない。
何を欲しがるのか。生きる意味は、どうして生まれたのか、何のためにこの世界に来たのかさえも分からない。人にとってごく当たり前のはずの感情が、なぜ俺には欠けている?家族も、友人も、ましてや愛する人もいない。俺の身長も、体重も、顔も、他の人間と大して変わらないというのに。
その**欠落の理由を知りたくて、俺は世界を巡る旅を始めた。様々な人に出会い、数多の光景を見てきた。だが、答えは今も不明**のままだ。
理解しようと試みたが、論理的処理が不能だった。
どうして人は、たった一つの願いに、あれほどの意地を張り、執着できるのか。そのためになら、他人を傷つけ、自分自身をも顧みない。苦痛なのは分かっているはずだ。実現は不可能だと、状況に示されている。どうせ最後の結末は同じ結果だというのに、それでもなぜ諦めない?
けれど、そんな彼らを嫌うわけではない。
多くの**選択肢**があるからこそ、この世界は挑む価値がある。どれほどの時間がかかろうともそれを叶え、そして他者に証明する──自分の願い(存在)は間違っていないと。
ある者は、運命の奴隷にならないため、理想郷を求め願いを欲する。
ある者は、復讐という煉獄の道を歩み、身を滅ぼしても、ただ家族との思い出を守りたかった。
ある者は、主の救済を望み、世界の人々を苦しみから解放し、自由という楽園へ誘おうとする。
これは、そんな人と人の**願い(存在)が激しくぶつかり合い、欲望まみれた虚妄な世界に「理想と意味」**を打ち立てる物語だ。
さあ、君たちの願いを俺に語るといい。




