理由
「今日もありがとう、エレナ」
食事を用意してくれた礼を言って席につく。俺を助けてくれた女の子はエレナという名らしい。小柄で可愛らしい子で、この森で一人で暮らしているとのことだった。
(確かお父さんと追手から逃げていた結果、ここに行き着いたんだったな)
逃げていた理由とかは聞いてない。プライベートなことだからな。しかも、お父さんは彼女を守るために逃亡中に死んでしまったらしいから余計聞けない。それに実はそれを聞いてるどころじゃない理由もあって……
「そんな! ディランが食料を分けてくれているおかげだから」
俺が頭を下げるとエレナは慌てて手を振った。口調で分かるように大分彼女とも打ち解けた。
……あ、ディランという名前はいわゆる偽名だ。エレナに聞かれてとっさに名乗ったものだが、気にいっている。
(俺は今、逃亡生活中だからな……流石にエドワードとは名乗れない)
十中八九追手がかかっているこの状況で本名を名乗ってしまえば、この森で静かに生活しているエレナに迷惑がかかってしまうに違いない。まぁ、既に迷惑はかなりかけているわけだけど……
(アンドリューのくれたマジックポーチがあってくれて良かったよ……これがなきゃ、未だにエレナにおんぶにだっこだったからな)
俺は助けてもらった礼代わりにマジックポーチにアンドリューが入れてくれていた食料や生活物資を渡しているって訳だ。ちなみに偽名もアンドリューのミドルネームから貰った。アンドリューのフルネームはアンドリュー・ディランダル・プランタジネット。ディランはその「ディランダル」を略した名だ。
(無事だよな……アンドリューとシャーロットは)
渡された本によれば、シャーロットのスキル、〈セイクリッドヒール〉は即死でない限り治癒が可能という法外なスキル。シャーロットならきっとそのスキルでアンドリューを助けてくれたと信じているが……
(何とか俺の無事も知らせないとな)
俺と同じくらい……いや、下手をすれば二人は俺以上に心配しているかもしれない。何とか俺が生きてることを知らせてやらないと……
「どうかした? あ、傷がまだ痛む?」
「いや、大丈夫! いただきます!」
いかんいかん。思わず物思いにふけってボケっとしてしまった!
(出来ることを一個ずつしていくしかない。”王族たるもの、焦らず驕らず着実に“だもんな)
まずは体調を戻す。そして、この森を出る方法を見つけないといけない。何故なら……
「ディランはやっぱり森の外に出るつもりなの?」
「約束があるからね」
料理に舌鼓を打っていると、不意にエレナがそう聞いてきた。思わず反射的に答えたが、間違っていないと思う。俺は確かに約束したからな。
「エレナは森の外に行きたいとは思わないのか?」
だが、それに安心したせいか、不意に余計な問いが口からこぼれ落ちた。こんな寂しい森に一人で生活してるなんて訳アリに決まってる。覚悟もないのにその事情に首を突っ込むべきじゃないのに……
「……私、臆病だから。それに”門番“をどうにか出来るとは思えないし」
エレナが“門番”と呼ぶ存在……俺はまだ見たことがない。が、彼女の話によれば、この森唯一の出口を塞ぐ門番がいるらしい。
(一体何者だ? それに何のために……)
最初にこの話を聞いた時にはエレナの追手絡みなのかと思ったが、門番は出口を塞ぐだけで彼女をどうにかしようとはしないらしいってのが引っかかる。一体何の目的でエレナをこの森に閉じ込めているのか……
(体調が戻ったら見に行ってみるか)
エレナも門番の姿をチラリと見ただけであまり詳しいことは分からないらしい。襲ってこないならまずは遠くから様子を伺うくらいなら大丈夫かな?
「ディランは凄いね。私、ここから出ようなんて考えたこともなかった」
「まだ出られるかは分からないけどな。それにこの森は静かだし、ここにいたいと思ってもおかしくはないと思うな」
そう、この森は静かだ。水や食べ物には困らないし、外敵や危険もない。まさか、城や街でもないのにこんなに静かで安全な場所があるとは思わなかった。
「……ありがとう、ディラン」
その微笑みにシャーロットを思い出し、胸がズキリと痛む。が、今度は何とかボロを出さずに微笑み返すことが出来た……
エレナからのお願い:
ディランって凄いな。私は森の外でまた怖い目に遭うかも知れないって思ったら怖くて……
あ、ごめんなさい。ところで、もしブクマやポイントがまだなら是非よろしくお願いします。だって、皆さんがまた来てくれないと寂しいし。ブクマしたらまた来てくれるってことでしょ?