表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/89

先手

「さっさと出て来いよ。早く済ませてぇんだよ」


 目の前にいる男はあのアーティファクトの二階層目で出会った男で間違いない。つまり……


(エレナのお父さんの仇……)


 エレナを孤独に追いやった張本人……俺の手で!


「私が行く」


 俺が声を発するより早く、何とエレナが立ち上がった。


「駄目だ、エレナ!」


「危険じゃ、エレナ! あやつは強い。三人がかりでもようやく五分じゃったのを忘れたのか!」


 ヘイゼルにそう言われてもエレナが引き下がる気配はない。それどころか瞳を燃やし、ウォーミングアップを始めている。


「エレナ、あいつを倒すのには俺も協力するつもりだ。だがらここは……」


「お主は強いが、それでも分が悪すぎる! 相応の理由があるのは分かるが、それでも……」


 エレナはウォーミングアップを中断し、俺達に背を向けた。


「あいつ、私のおとうさんの仇なの」

「……!」


 必死で説得していたヘイゼルが押し黙った。父の仇……それは仲間と言えど口出しするにはあまりに重すぎる理由だ。


「でも、あいつを殺したり倒したいってことじゃないの。勿論、あいつは憎い。殺しても殺しても……何度でも殺してやりたいくらい憎い」


 ………


「でも、それは二番目だって今気づいた。私にはそれよりも絶対にしなきゃならないことがあるの」


 おとうさんの仇を打つことが二番目……


「証明しなきゃいけないことがあるの」

「証明……じゃと?」


 復讐を二の次にしても証明したいこと……


「私、おとうさんを送る時にディランの手を借りたの。その時の私じゃ一人でおとうさんを助けることが出来なかったから」


 娘を想う気持ちが未練となり、アンデッドと化したエレナのおとうさんを止めるため、俺とエレナは戦った。最後は二人で天国へ帰るのを見送ったのだが……


「だから、私は証明したい。私はもう一人でも道を切り開けるって天国にいるおとうさんに見せたいの。だから、逃げたくない」


 エレナ……


「……分かった。良いか、ディラン」

「ああ」


 本当な行かせたくない。けど多分、ここで行かせないとエレナだけじゃなく、エレナのおとうさんにも怒られる。そんな気がする……


(俺に今出来るのは信じて待つことだけ、か)


 エレナは背中を預け合う対等な仲間なんだ。危険だからって本人の意思を無視してどうこうするなんて無礼だ。でも……


「エレナ。危険だと思ったら棄権してくれ。約束だぞ」


「分かったよ、ディラン。ありがとう」


 エレナはそう言ってニッコリと笑うと闘技場へ向かった。それと同時に観客が一斉に歓声を上げる。


「ディランチームの二番手はエレナ選手! 何と奇しくも徒手空拳同士の対戦となりました!」


「ですが、勝負はやる前から見えていますね。体格差がありすぎます」


 相変わらず煩い解説だが、今の俺にはそれに文句を言う余裕さえない。


(無事に戻って来てくれ、エレナ……)


 俺はただひたすらそれだけを念じながらエレナの背中を見送った……



(エレナ視点)


「くっくっく……お前が出てくるとは手間が省けたよ」


 男──どうやらベルナルドという名前らしい──はニヤニヤと気味の悪い目つきで私を見る。何を考えてるのかなんて分からない。けど、知りたくもない。


「しっかし、親子揃って馬鹿だよな。勝てもしねーのにこうやってのこのこやってくるんだもんな!」


 おとうさんを馬──


“怒りに飲まれるな”


 不意にセオさんの言葉が脳裏をよぎる。


”そなたの持ち味は五感の鋭さがもたらす視野の広さじゃ。だから、常に平常心を保つのじゃ“


 でも、こんな奴におとうさんを馬鹿にされて黙ってるなんて……


“相手の言葉でなく、自分の内から聞こえる言葉に耳を傾けるのじゃ。そなたにはたくさん味方がいるはずじゃ”


 私の内から聞こえる言葉……


“エレナ。危険だと思ったら棄権してくれ。約束だぞ”


 心配しながらも送り出してくれたディランやヘイゼル、そしてオリヴァーさん。そして、私に力をくれたセオさん。私は今、色んな人に後押しされてここにいる……


(そうだ。私の中には憎しみや怒り以外のものもある)


 あいつは強い。だから、私の全てをぶつけなきゃ。そのために必要なのは怒りや憎しみだけじゃない……


「あの父にしてこの娘あり、だな。俺に痛めつけらるために来るなんて……馬鹿すぎて笑えるぜ!」


 耳が、鼻が、目が、触覚が……私に今と未来の世界を教えてくれる。だから、出来る。心の中の全てを相手にぶつけることが!


「たっぷり楽しませてもらうぜ!」


 ビュン!


 ベルナルドの姿が消える! そして……


 ドガッ!


 重く鈍い男と体の芯に響くような感触……当たった!


「な、何と! 開幕早々エレナ選手の拳がクリーンヒット!」


 私は負けない! 見ていて、おとうさん!

ディランからのお願い :

 よし、やった!


 けど、相手はかなりの強敵だ。まだまだ油断は出来ない! 今の俺に出来るのは見ていることだけだが、みんなは俺よりエレナの力になれる。ブクマ&ポイントがまだの人は是非! レビューとかも必ずエレナの力になる! エレナ……必ず無事に帰ってきてくれよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ