ゆずれぬ願い
(オリヴァー視点)
ザクッ!
クローディアはためらいもなく自分の胸にそれを突き刺した!
「何を!?」
よろめくクローディアに慌てて駆け寄る! が……
ピィィーン!
聞いたことのないような音を立てながら冷気がクローディアの周りで荒れ狂う。どう見たって普通のものじゃない!
「おい、クローディア!」
「氷よ!」
クローディアの呼びかけに応えるように凍気が襲いかかる! 紙一重でかわせたものの、俺はその攻撃に恐怖した。
(これは確か術者の命を削る禁術……)
昔一度だけクローディアから聞いたことがある。これは使ってはならない禁術、“氷妖降ろし”。簡単に言えば化け物に体を明け渡す術だ。
(早く止めないと……)
止めるにはクローディアの胸にある▲を抜かなくてはならない。が、そのためにはこの吹雪の様な凍気をかいくぐらないとな。
(……使うか)
実は俺の体は今、病魔に侵されている。どうしてそうなったかについては色んな経緯があるんだが……今はそれはいいか。
(封印を解けば病の進行が早まるが……)
病魔の進行を遅らせる為に仲間は封印を施してくれた。これにより俺は自分の力と一緒に病魔の力を抑えつけ、その進行を抑え込んでいるのだが……
(クローディアの命が優先だ!)
そもそも皆が俺の病気を何とかしようとして自分達を犠牲にしようとするのを避けるためにわざわざ遠く離れたこの国まで来たんだ。なのにこんなとこまで俺を追いかけて来やがって……
(見捨てられるわけねーだろうが!)
全く……俺が何のためにこんなとこまで来たと思ってるんだよ! 頭は良いくせに肝心なところが分かっちゃいねーな。
(ま……お前らしいっちゃお前らしいけどよ)
だからこそ、見捨てられない。末先短い俺と未来にあふれたお前達。どちらの命が優先されるかなんて決まってる!
(封印──)
その瞬間、突如威力を増した凍気に押されて俺は後退した。反応出来たのはたまたまだ。それくらいそれは唐突で……
「サセない……サセないィィィ!」
クローディアの胸に刺さった▲から広がる侵食が急激に広がってる! くそっ……何で!
「ツカワせない! シナせナイィィ!」
凍気はもはや闘技場だけでなく、観覧席を覆う結界まで凍らせ、破壊しようとしている。そうなれば観客にも被害が……
(……いや、そうなればクローディアがただじゃ済まない!)
申し訳ないが、この国の民が犠牲になったとしても罪悪感はあるにせよ、自分が何とかしなきゃとまでは思えない。だからこの場における俺にとっての最優先はクローディアだ。だから……
(お前を止める!)
が、俺が近づこうとする度に凍気はより疾く、より強力になっていく。
「クローディア! もう止めろ!」
「アァぁぁッ!」
ゴゥゥゥ!
凍気が荒れ狂い、手当たり次第に凍らせていく。俺の声はもう届いちゃいない。
(くそっ、もう意識がほとんどない。止めるにはもう……)
クローディアは頭は良いのに、情が深い故に時々あり得ないような馬鹿な行動を取る。それが今回の最たる例だが……今はそんなことはどうでも良い!
(ディラン、済まない……)
既にロスタイムに入った俺の人生。だが、最後にお前の力になってやりたかった。お前が奪われたものを取り返すのを助けてやりたかったんだが……
*
「勝者クローディア!」
審判の声が響くと共に吹雪は止んだ。
カッ……
崩れるように倒れるクローディアさん。が……
ガシッ!
倒れる前にクローディアさんをオリヴァーさんが抱きとめる。良かった……
「済まない、ディラン。降参しちまった」
恐らくオリヴァーさんはクローディアさんを止めるために降参するしかないと判断したのだろう。あの尋常じゃない吹雪……術者の命に影響がないはずが無い。
「気にしないで下さい。オリヴァーさんの判断はベストだったと思います」
「うむ。あのままでは関係のない観客を巻き込かねなかったからの」
「まだ三戦あります! それよりクローディアさんを」
オリヴァーさんは皆に謝りながら──そんな必要はないのに──クローディアさんをエレナの近くに降ろした。
「救護の人が来るまでに少しでも回復出来るはずです」
「すまん。ありがとう、エレナ」
クローディアさんは助かるのだろうか。魔法に詳しくない俺には良く分からないが……
「さて、いよいよ二回戦です!」
空気を読まないな………全く!
「さて、やはり初戦に勝利したエドワード王子チーム! このまま二連勝か!? 次の選手は──」
場内に響き渡るアナウンスには構わず一人の男が闘技場に上がる。そいつは……
(あいつはあの時の!?)
エレナからのお願い :
………感じる。あいつの気配だ。
分かってた。あいつがこの場に来ることは。だから、私は自分がどうするかはもう決めている。だから、もしあなたがブクマ&ポイントがまだならポチッとして応援して欲しいの。レビューとかも私の勇気になると思う。私頑張るから……見ててね。




