因縁
(ディラン視点)
「さあ、いよいよ決勝戦です! 常勝不敗のエドワード王子との決戦戦に臨むのは、何と無名の冒険者チームです!」
「全くの予想外でしたね。が、結果は分かりきっていますが」
「ええ。何せエドワード王子はここまで素晴らしい戦いを見せて下さいましたからね! 私のイチオシの戦いは何と言っても──」
闘技場へと降りた俺達だが、アレクサンダーはまだ姿を現さない。代わりにエドワード王子、つまりアレクサンダーの今までの戦いを称賛するようなアナウンスが延々と続いている。
(早く出て来いよ、アレクサンダー!)
ようやくここまで来たのにいつまで隠れているつもりなんだよ!
「……さて、ここまでの名場面を振り返ったところでこの決勝戦の特別ルールをお伝えします」
決勝戦の特別ルールだと?
「決勝戦は勝ち抜き戦とします。相手のチームメンバーを全員倒した方の勝ちとします!」
なっ……
(つまり、みんなと連携した戦い方は出来ないってことか……)
俺達は互いに強みを活かす作戦を考えていただけに嬉しくはないルール変更だが……仲間の力を頼れないのはアレクサンダーも同じはずだ。
(一体何を考えてるんだ、アレクサンダーは)
仲間の力を信じているのか? それとも……
「一番手は俺かな?」
俺がそんなことを考えているとオリヴァーさんがそう言った。
「あれこれ考えても仕方ねーよ。まずは俺が様子を見に行くからよ」
俺がそれに応える前にオリヴァーさんは一歩前へ出て俺達に背をむける。けど、急にルールが変更になった試合だ。何があるかは分からない。一番手は危険なんじゃ……
「この中じゃ俺が一番実戦経験が豊富だ。様子見にはもってこいだろ?」
確かにオリヴァーさんならどんな状況でも切り抜けることが出来るだろう。実力は勿論、とっさの状況判断力や冒険者としての知識は俺達の中で一番なのは間違いない。
「分かりました、お願いします。でも無理はせず、危なくなったら棄権して下さい」
「おう!」
俺がそう言うと、オリヴァーさんはそう言って前へ出る。その先に現れたのは……
(あの人は!)
向こうの一番手として出てきたのはアーティファクトの中で最初に俺達の前に立ち塞がったあの女の人だ!
「まっ……やっぱりお前が一番手だよな、クローディア」
「……」
何だが訳ありな雰囲気だ。確か知りあいだとか言ってたような。
「試合を棄権して、オリヴァー」
「無理だな。俺はディランをこの試合に勝たせてやりたいんだ」
「けどあなたは……!」
「俺にも事情がある。この試合、負けられねーよ」
オリヴァーさんの事情……そう言えばこのクローディアと言う女の人とはどんな関係なんだろうか。
(バタバタしてて事情は聞けてないけど……)
だが、オリヴァーさんの背中には有無を言わせない何かがある。きっと譲れない何かがあるんだろう。
「あなたはいつもそうやって他人のことばかり……」
「俺のことを心配してくれるなら、棄権してくれても良いんだぜ?」
おどけた様子でそう言うオリヴァーさんを睨みつけるクローディアさん。二人の間に緊張が走る……
「……いいわ、なら一瞬で終わらせてあげる」
そして、試合が始まった!
*
(オリヴァー視点)
クローディアが放つ無数の氷柱をかわしながら、接近する。勿論、接近したところであいつが待機させてある防御魔法が発動するが……
(発動するのは一瞬だけ。つまり、フェイントをかければいい)
あいつの手の内は分かっているが、それは向こうも同じこと。さて、どうするか……
「……駄目ね、これじゃ」
が、クローディアが急に氷柱を撃つのを止める。俺は予想外の行動に思わず立ち止まってしまった。
「おいおい、どうしたんだ?」
クローディアは相手と距離をとって得意の魔法で圧倒するスタイル。攻撃を止めれば俺に距離を詰められてしまうぜ?
「このままじゃ時間がかかるし、勝てるかどうかも五分五分。それじゃどちらにしてもあなたに負荷がかかりすぎるもの」
「……」
確かにこのままではアーティファクトの時と同じような戦いになるだろう。と言っても俺が勝てるとは限らないが……
「あなたが自分の命を削ると言うなら私も同じことをしないとあなたは止められない、そう言うことね?」
「クローディア、何をする気だ?」
クローディアは愛用の杖を捨て、腰から何かを取り出した。
「私はあなたを絶対に勝たせない。あなたの戦いはここで終わりよ」
そう言うとクローディアは手にしたそれを……
ディラン(エドワード)視点 :
オリヴァーさん、いつも通り飄々とした感じだったけど大丈夫なのかな…… そう言えば、オリヴァーさんってここに来る前は何をしていた人なんだろう。過去を詮索するつもりはないけど、よく考えたらあまりよく知らないな。
……って何だ? 何かただならない雰囲気が! この先はヤバいかも。皆もブクマやポイントをポチッとして危険に備えてくれ!




