可能性
“ようやく妾の声が届いたか……心配したぞ、ディラン”
この声はヘイゼルか……?
(そう言えば、最初に『アノニマス』達と話していた時にもヘイゼルがいたな)
確か従魔契約が影響しているとか聞いたような……まあ、今は理由なんてどうでもいい。
”しっかりするのじゃ、ディラン! お主は何のためにここまで来たのじゃ!“
何のために……俺は父さ……
“自分の手で婚約者とアンドリューを取り返すためじゃろ!”
………!
(でも、俺は……)
俺は偽物の感情しか持たない偽りの存在なんだ。その思いだってもしかしたら──
“思いだすのじゃ! クラスはそなたの可能性、そなたの一部じゃ! 皆誰しも良い自分と悪い自分がいる。それは当然のことじゃ!”
良い自分と悪い自分……なら、俺には
”そなたが妾達を、アンドリュー達を大切に思っていることは知っておる!“
みんな……
(そうだ、俺にはここまで力を貸してくれた仲間が、大切な人達がいる……)
俺の力をいち早く見つけ出し、城を出て力をつけろと送り出してくれたアンドリュー
俺が一人で城を出ると聞いて怒ってくれたシャーロット
傷を負った俺を助け、力になると言ってるてくれたエレナ
解呪を恩に感じてこうやって助けてくれるヘイゼル
冒険者になってからずっと助けてくれてるオリヴァーさん
(マシンG、アレックス……他にも大勢の人に助けてもらった)
そう、こんな俺のために……
“最初はどんな想いがあったのかは知らぬ。じゃが、そなたはここまで全力で戦って来た! 妾を命がけで救ってくれた!”
ヘイゼル……
“そして、今、婚約者とアンドリューを取り返すために強くなり、ここにいる! それもまた揺るぎない事実じゃ!”
最初はただ認めてもらいたかった。けど……
(そうだ、俺は……)
次第に俺はアンドリューのように強くなりたくなった。
母上のように優しく正しい人間になりたくなった。
一途に想ってくれるシャーロットに相応しい男になりたくなった。
”人の心の中には色んな自分がいるのじゃ。そして、それはどれも本物で必要なもの。クラスと同じじゃ!”
クラスと同じで良い自分も悪い自分も要は使いよう……そう言うことか?
(偽物の自分、弱い自分なんて使い道はなさそうだけど……)
でも、『シーフ』やアレックスが教えてくれた。気に入らない力でもきちんと使いこなせば大切なものを守る力になってくれると。
(そうだ……俺にはやらなければならないことがある!)
アレクサンダーを倒し、シャーロットとアンドリューを取り返す! こんなところで負けてはいられない!
(俺はもう父さんに認めてほしいだけの子どもじゃない! 自分の大切なもののために戦う一人の男なんだ!)
バシュッ!
赤黒い炎がかき消えると、そこには膝をついたヘイゼルがいた。
「ヘイゼル!」
「ディラン……良かった。間に合ったみたいじゃな」
「すまない。世話をかけた」
肩で息をするヘイゼルにそう言って謝ると、彼女は弱々しく笑って首を振った。
「何のこれしき……それにこれは妾がアンドリュー殿と約束したことじゃからな」
「アンドリューと?」
ヘイゼルはアンドリューと会ったことが会ったのか!? 一体いつ……
「そなたが意識を失い、シャーロット嬢の治療を受けとる時じゃ。アンドリュー殿はそなたの婚約者の護衛として来たのじゃ」
そうか……そうだったのか
「思った通り……いや、思った以上の立派な武人じゃった。そして、お主を本当の息子のように大切に想っておる」
ああ、そうだ。アンドリューは俺のことを本当に大切に思ってくれている。
「シャーロット嬢やアンドリュー殿だけではない。妾もエレナもオリヴァーも……そなたを慕い、力になりたいと思っている者は大勢おる。そのことを忘れるな、ディラン」
「ああ。もう絶対忘れないよ、ヘイゼル」
俺がそう答えるとヘイゼルは再び弱々しく微笑した。
「よし。それでこそいつものディランじゃ……ごほっ、ごほっ!」
「ヘイゼル!」
俺が慌てた声を出すと、ヘイゼルは”大丈夫“と言わんばかりに手を振った。
「大丈夫、少し疲れただけじゃ。じゃが、もう力にはなれそうにないの……」
ヘイゼルの姿がまるで陽炎のようにぼやけ始める。これは一体……
「ディラン、奴と決着をつけて帰ってくるのを待っておるぞ」
「ああ、きっちり勝って帰るよ。約束する」
俺がそう言って突き出した拳にヘイゼルの拳が重なる。その瞬間、金色の光が爆発した!
ヘイゼルからのお願い :
ふぅ……何て強力な世界じゃ。立っているだけでここまで消耗させられるんじゃからな。
後はディラン次第。じゃが、妾はそなた勝利を信じておるぞ! 必ず勝って戻ってくるのじゃ! 他の誰でもない、そなた自身のために!!!
……とテンション上げた後に言うのは恥ずかしいのじゃが、ブクマ&ポイントがまだの方はこの機会にポチッとしてディランを応援して欲しいのじゃ。妾にはもうそなたに助力を請うことくらいしか出来ることがなくての……よろしく頼むのじゃ。




