デジャヴ
ビュッ!
「がはっ!」
距離をとった俺達だったが、その直後にヘイゼルの鳩尾に男の拳が突き刺さる。くそっ、何てスピードだ!
「ヘイゼル!」
「ディラン、危な──」
さっき聞いた風切り音が耳元でなった瞬間、俺は激しい衝撃を受けた!
「このッ!」
無我夢中で拳を繰り出した拳は空を切る。が、追撃はなく……
「ちと痛えな……小娘の癖に中々重たい拳じゃねぇか」
少し離れたところにいる男は俺を睨みながら苛立った声を上げる。
(いや、俺に対してじゃない……)
こいつはいつの間にか側にいるエレナに向かって言ったんだ。
「エドワードさま、イタムばしょはアリマセンカ?」
「ありがとう、マシンG。大丈夫だ」
マシンGはいつの間にか鎧のような姿になり、俺の体を守ってくれている。さっき、攻撃を受けつつも反撃することが出来たのはマシンGが庇ってくれたからだな。
「エレナ、さっきはありがとう」
「気にしないで。それよりこの人……」
霧のように姿を消す……ように見えるのは単純に動きが速いからだろう。要は俺の目がついていけていないのだ。
(何かのスキルか? それとも……)
そう考えた瞬間、俺の中の感覚が”違う!“と叫ぶ。この速さは何か違う。スキルとかじゃなくてもっと別の……
(待てよ……この感じ何処かで……)
俺がそんなことを考えてると、男は急に大きな欠伸をした。
「面倒くせーな。ここで酒を呑んでりゃいいと思ったのになぁ」
態度も行動も何もかも違う。が、戦い方だけは何故か重なる。それは認めなくない事実だった。だが……
「けどまぁ、さっさと終わらせればいいか!」
男の姿が消えた!
(来──ッ!)
接近に気づけたのは拳が当たる直前……だから、俺は身構えることしか出来なかった。
ザザザッ……
防御は出来たが、拳の威力に押されて後退させられる。速度もそうだが、威力も凄まじい。
(くっ、次は……)
追撃に身構えた俺だったが、男はもう俺の前にはいない。くそっ、何処に……
「エドワードさま! サンじノホウコウです」
マシンGの声が聞こえるのと同時に……
ブンッ! ドカッ!
振り向くと男が放った蹴りをエレナが防御している! この一瞬でまさかあそこまで移動して攻撃まで……
(だが、この位置なら!)
俺が右腕を男に向けると、閃光が走る! アーマーモードの機能の一つだが、声に出す前に発動したのはマシンGが動きから俺の意思を読み取ってくれたからだ。
フッ……
閃光が飛んだ瞬間に男の姿が消える。不意をついたはずだったんたが……やはり速いな。
「くそ……何なんだ、その鎧みたいなのは。面倒くせーなぁ」
閃光がかすった左腕をさすりながら男は苛立った声を上げる。奴に初めて当たった攻撃だが、次は通じないだろう。
「それに小娘……お前、混ざり者だな」
混ざり者? どういうことだ?
「おかしいな……この国の獣人はもう皆殺したはずなんだがな」
な……何だって!
(この国の獣人を全員殺しただと!?)
それが本当なら一体どれだけの命をこの男は奪ったというのだろうか。身の毛もよだつような恐ろしい話だ。が、俺の脳裏に過ぎったのはそれとは別のことだった。
(この国の獣人を全員殺した、ってことはまさか……)
まさか、エレナのお父さんを殺したのは……
「いや、待てよ? 確かあいつが連れていた子どもがいたか? あいつをぶち殺せたことでうっかり忘れてたが……」
「ああああッ!」
エレナが咆哮と共に突進する。男と同じ、いや、それ以上のスピードだ! だが……
ズン! ガシッ……
エレナの一撃は難なく防がれ、逆に腕を掴まれてしまった!
「まさかお前、あいつの娘か? そりゃ良いな。お前を玩具にすれば、あいつの供養になるか──!」
俺の拳が男の顔を強打する! まだまだこんなもんじゃ終わらない!
「死ねッ!」
不意打ちで怯んだ男の鳩尾に俺は再び全力の一撃を撃ち込んだ!
ドッカーン!!!
男の体が飛び、壁へとぶつかって爆音を立てる! こんなもので……こんなもので済ませるものか!
「エレナ、二人でやるぞ」
「……」
エレナは何も答えない。分かる。今のエレナの気持ちはよく分かる。でも……
「一人で戦いたい気持ちは分かる。けど、アイツは強い。いや、そんなことはどうでもいい!」
エレナが僅かに顔を上げる。彼女が今どんな表情をしているのか。俺はそれを確認する余裕さえなかった。
「俺だってコイツを許せない! 絶対に許せない!」
「………分かったよ、ディラン」
エレナが立ち上がる。俺は彼女と並んで、構えをとった。
ヘイゼルからのお願い :
くっ……何と重たい拳じゃ。体が動かぬ。しかも、エレナとディランはあやつと何かあったのか? 完全に頭に血がのぼっておるな……
こりゃ、次話も激闘になるに違いない。ブクマ&ポイントがまだの方は明日の更新を見逃さぬようにポチッとしておくのが良いと思うぞ。




