企み
楽士が奏でる音楽に乗り、俺と女性はダンスを踊る。ダンスというのは相手といかに息を合わせるかが大切だと習ったことがある。が、今は意識せずともぴったりだ。だって、相手は俺のパートナーで婚約者なんだから。
“ずっと逢いたかったわ、エド”
眼差しでそう語るシャーロットに俺も同じだと応える。お互い正体がバレる訳にはいかないから口に出すことは出来ない。が、今の俺達は言葉がなくとも意思が通じ合える、そんな気がした。
”心配をかけてごめんな、シャーロット“
そう。本当にシャーロットには心配をかけさせてしまった……
“大丈夫。私は信じていたから”
そう語る瞳には強い光が宿っている。心の奥底に秘めた意志の強さが垣間見えるその表情は俺が最も好きな表情の一つだ。
”後少しだ。後少しで決着がつく“
“ええ。私もアンドリューもあなたの勝利を確信しています”
シャーロットのは見た目も所作も完璧な淑女だが、実はそんな見た目とは裏腹に芯は強い。だから、俺は気づいていた。力強い言葉の裏で激戦を控えた俺を心配していることを。
”大丈夫だ。心強い仲間もいるからな“
“そうですね。でも、気を付けて下さい。アレクサンダーはまだ何かを企んでいます。今日はそれを伝えに来ました”
企み……やはりか。
”ありがとう、シャーロット。何を企んでいても必ず奴を打ち倒して、君とアンドリューを取り返すよ“
“エド……”
いよいよ、曲もフィナーレだ。まだまだ話したいことはいっぱいある。けど……
(全てが終われば、きっと……)
そして、それはもうすぐだ。
*
ダンスが終わると、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。どうやら俺達は会場の注目の的だったらしい。
(まさかここまで注目されるなんてな)
シャーロットを伴い、俺はエレナやヘイゼルの元へ戻る。立場的にあまり注目されたくないのは彼女も同じだろう。
「ディラン、凄かったよ! 何と言うか……息ぴったりだった!」
「うむ。見事じゃった」
そう言って褒めてくれたエレナとヘイゼルにシャーロットのことを紹介しようとしたその時、衛兵が俺達の元にやってきた。
「ディラン様、剣聖アレクサンダー様がお会いになりたいと」
アレクサンダー……遂にか!
「直ぐに参ります」
「サポートの皆様もご一緒にどうぞ」
俺は名残惜しそうなシャーロットの手を励ますように強く握った後、皆と一緒に衛兵の後に続いた。
(アレクサンダー、遂にお前と決着がつけられるな……)
俺から全てを奪い、アンドリューを傷つけた因縁の相手、アレクサンダー。今こそ決着の時だ!
”因縁……ね“
リベンジャーか?
(何だ、急に?)
だが、返事はない。気のせいか?
「こちらの部屋でアレクサンダー様がお待ちです」
皆が頷くのを確認してから案内された部屋のドアノブに手をかけ、ドアを開ける。部屋の中にいたのは……
「!?」
入った部屋には誰もいない。どういうことだ?
「人の気配がないね」
「誰もいないのう」
エレナとヘイゼルが素早く室内を見回し、そう教えてくれた。この二人がそう言うなら確かにこの部屋には誰もいないのだろう。
「何か嫌な予感がするな」
オリヴァーさんがそう言った瞬間、バタンという音と共にドアが閉められた!
「なっ!」
ガチャガチャ!
鍵を閉める音がする。くそっ、閉じ込められたか!
“久しぶりだね、義兄さん!”
室内にアレクサンダーの声が響く。くそ、罠か!
「何処にいる! 出て来い、アレクサンダー!」
”僕はエドワードだ! アレクサンダーじゃない!“
苛立つアレクサンダーの声がする。が、この部屋からじゃない。声を遠くに届ける魔道具か何かを使っているのか?
”相変わらずだね、義兄さん。あなたは僕の邪魔ばかりする“
「お前はコソコソしてばかりだな。いい加減表に出て来たらどうだ」
この闘技大会といい、この罠といい、本当にやることが回りくどいぞ、アレクサンダー!
“僕のやり方をとやかく言う前に自分の心配をした方がいいね、義兄さん! もう間もなく起動するはずだから!”
アレクサンダーがそう言った瞬間、部屋が白い光を放ち始めた!
「むっ……この気配、まさか!」
”見事なダンスを見せてくれた褒美だ! 精々楽しんでよ! もし、そこから出られたなら今度は僕がお相手するよ、義兄さん!“
白い光は次第に強さを増していく。それは部屋中に広がって……
アレクサンダーからの忠告 :
あっはっは! まんまと引っかかったね、義兄さん! これでお別れ、ジ·エンドだね! 何たってこれは母様から頂いた──おっと
これから先は次話のお楽しみだ!
何? 早く知りたい? まあ、明日まで待て。ただブクマとポイントがまだなら忘れずにポチッとすることを勧めるぞ。何故って万が一にも見逃したら大変だからな。何せ俺が仕掛けたのは……




