源泉
「いきなりどうしたんだよ、アレク──」
「僕はエドワードだよ、義兄さん!」
アレクサンダーは強い語気でそう言い放つ。
(確かに父さんはそう言っていたけど……)
もしかしたら今後は公の場ではアレクサンダーがエドワードを名乗るのかも知れない。だが、こんな身内だらけの場面で──しかも、当人である俺がいるこの場で──そんなことを言って何になるのだろう。
「俺はこれから父さんの命令通り城を出ていくところだ。邪魔しないで貰いたいんだが」
背にシャーロットがいるこの状況下……出来るだけことは穏便に済ませたい。だから俺はアレクサンダーを刺激しないように言葉を選んだ。が……
「確かに父さんはそんな甘いことを言ってたな。だけどね、義兄さん! 僕はあんたに生きていられちゃ困るんだよ!」
なっ……
(アレクサンダーに恨まれるようなことはしていないと思うが……)
何せ今までほとんど接点がなかったのだ。二人きりでいたことなんて数えるほどしかない。なのに何で……
「僕はいつも二番目。何をしても義兄さんと比べられては、”エドワードを見習いなさい“、”エドワードを見習いなさい“って……もううんざりだ!」
俺の知らないところでアレクサンダーはそんな目にあっていたのか。だがっ……
「けど、そんな日々とももうお別れ! 今日から僕がエドワードなんだからな! だから義兄さん、あんたは消えてくれないと困るんだよ!」
つまり、本物である俺がいたらアレクサンダーは俺になりきれないってことか? そんな無茶苦茶な!
「ここは私にお任せを。お二人は早く先へ!」
何を言っても無駄……多分そんなふうに考えたのだろう。アンドリューが前へ出るとゆっくりと剣を抜いた。
「アンドリュー!」
「大丈夫です。お忘れですか? この第一王子エドワード殿下の指南役にして“剣鬼“の称号を頂いた私の剣腕とスキルを」
「しかし……」
アンドリューの腕は知っている。それこそもう嫌というほどにだ。でも、アレクのあのスキルは危険すぎる。いくらアンドリューでも……
「お早く! 行きますよ、アレクサンダー様ッ! 〈秘剣:不知火〉!」
「僕はエドワードだ! 世話役風情が楯突くなッ!」
剣を振る瞬間さえ見えないアンドリューの剣……しかし、アレクサンダーの剣は更に速かった!
ブシャッ!
アンドリューの体から噴水のように血が……
「アンドリューッッッ!」
シャーロットがアンドリューの元に駆けつける。だが、俺は動けなかった。
(嘘だろ……嘘だよな)
空が割れ、地面が揺れる。世界が崩れていく……
(アンドリュー、俺のアンドリュー……)
小さい頃からいつも俺の傍にいてくれたアンドリュー
俺が始めて剣を握った時……
座学が嫌で泣いていた時……
そして、母さんが亡くなったあの時も。
いつもいつも傍にいてくれた。そして、励ましてくれた、叱ってくれた、鍛えてくれた。
(母さんが生きていたころから父さんとはあまり会えなかったけど、俺は寂しくなかった。だって、俺にはアンドリューがいたから……)
だから俺は、俺は……
ブンッ!
俺の物思いを断ち切るかのように空を裂く音がする。音さえ置き去りにするアレクサンダーのスキル……
(アンドリューはそのせいで死──)
ドクン……ッ
心臓が今まで感じたことがないくらい大きく鼓動する。そしてそれはだんだん速くなる。どんどん速く、強くなる……
「ハッハッハッ! 見たか、僕のスキル! 僕の力ッ! もう二度と誰とも比べられない! 誰からも蔑まれないッ!」
勝ち誇るアレクサンダーの言葉はもう俺の耳には入っていない。俺の心はもうアレクサンダーへの殺意で溢れんばかりだ。
(よくも……よくもアンドリューを!)
アイツのスキルが音より速かろうが、関係ない。俺の剣で……アンドリューに習ったこの剣で仇を取るッ!
「義兄さん、僕とやる気なのか? ならアンドリューと一緒に地獄へ送ってやるよ!」
殺すコロスころす殺すコロスころす……
◆◆◆
ダーククラス『リベンジャー』を獲得しました
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唐突に頭に響いた声は……ステータスからか?
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警告:ダーククラスのもたらす力は強大ですが、重大なリスクがあります。
クラスを『リベンジャー』に変更しますか?
Yes →No
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筆者の独り言
ディランが聞いたのはレベルアップなどの時に聞こえてくるいわゆる通知です。戦闘中のように何かに注意を向けている時には気づかないこともありますが、今回は重要なメッセージなので音量(?)大きめになっています。
アンドリューからのお願い:
い、いけません、エドワード様ッ! 私のことには構わず先へお進み下さいッ!
ところで皆様、ブクマはお済みですか? 賢明な皆様のお気づきの通り、次話も大変なことに! “王族たるもの、次話が気になれば即ブクマ!” どうぞよろしくお願い致します。