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エレナの決意

 ザッ


 セオさんが私に向かって来る。隙のない鋭い攻撃はかわすことは難しい。けど、私なら何とか回避出来る……


(けど、気をつけなきゃ)


 私がギリギリで回避出来ることはセオさんも分かっているはず。だから、既に次の作戦があるはずだ。


 ダッ……


 私は最小限の動きでセオさんの突進をかわす。すると……


 ブン!


 繰り出された右手の攻撃をかわした瞬間、その勢いを利用した足払いが飛んできた。


(……やっぱり!)


 私はジャンプしてかわし、落下する勢いをそのまま使って……


 ドカッ!


 私の放った踵落としは素早く体勢を立て直したセオさんに防がれてしまった。


 ザッ……


 私は地面を蹴る一瞬だけ〈発勁〉を発動させて距離を取った。


(追撃が来るかと思ったけど……)


 セオさんは私の出方を伺っているのかじっとしている……が、突然、構えを解いた。


「良いのう……」


 ……どうしたんだろう


「五感を使いこなし始めとるな、エレナ。もっと時間がかかるかと思っておったが……そなたは本当に筋が良いのぅ」


「ありがとうございます」


 感謝の言葉を口にしつつも気は緩めない。それは油断が出来ないということもあるけど、私はまだ自分が十分に五感を使いこなせてないと分かっているからだ。


「次はそちらから攻めてくれぬか。そこまで走るのがしんどくての」


 ……しんどいとかは絶対嘘だ。きっとセオさんは私を試してるんだ。


(攻めながら上手く五感を使えるかな……)


 迷いはある。けど、まずはやってみなきゃ!


「行きます!」


 私はセオさんに向かって突進する。地面を蹴る瞬間だけ〈発勁〉を発動した私の最高速度。これを拳に乗せて……


(でもかわされる……)


 私の五感は回避行動をとっているセオさんに私の攻撃が当たると教えてくれる。けど、これはセオさんの罠だ。


(……なら!)


 私は再び〈発勁〉を発動! そして……


 キュッ!


 拳がセオさんに向かう直前……私は左足を地面につけ、それを起点に体を半回転させた。すると私の体は丁度回避行動を終えつつあったセオさんの後ろに滑りこんで……



「遂に儂に一撃入れることが出来たの。流石じゃ、エレナ」


「ありがとうございます」


 私がセオさんに当てられたのはたった一撃。でも、私にとっては大きな一歩だ。


(これで私はもっと強くなれる!)


 そう。私はもっと強くなって……


「ところで、エレナ。そなたは何故強くなりたいんじゃ?」


 不意にかけられたその言葉は私にとって予想外のものだった。


(何故強くなりたいのか、か……)


 私はお母さんを探したい。そのためには力が必要なのは確か。でも……


「そなたは器量も良いし、覚えも早い。戦わずともいくらでも生きていく術は見つけられるじゃろ?」


 確かに別の道もあるかも知れない。お母さんを探すにしろ、もっと他のやり方があるかも知れないし。でも……


「そうですね。でも、私……またディランに頼ってしまうのが怖いんだと思います」


 私の胸をよぎるのはアンデッドとなりつつあるお父さんとの最後の戦い。あの時、私はディランと一緒に戦った。でも……


(本当は私一人でお父さんと戦わなきゃいけなかったのかも知れない……)


 けど、実力の差以前にあの時の私は一人でお父さんと戦うことが出来なかった。例えそれがお父さんの最後の望みだとしても…… 


「私、前に自分でやらなきゃいけないことから逃げてディランの手を借りました。けど……いえ、だからこそ次そんなことがあった時、今度こそ自分一人でやれるようになりたいんです」


 そんな時があるかどうかは分からない。けど、あるかどうかは問題じゃない。大切なのはその時、私がすべきことを出来るかどうか。


(それに……多分そう遠くないうちにその時は来る)


 何の確証もないけど、私はそう感じてる。だからこそ、それまでに強くならなきゃいけないんだ。


(……そうだよね、おとうさん)


 そうじゃないと私を守って死んだお父さんに……


「……そうか。辛いことを思い出せてしまって済まなかったの」


「……いえ」


 セオさんが今まで見せたことのない顔をしているのを見て、私は自分が涙を流していることに気がついた。


(……駄目だな、私)


 お父さんのことを思い出すだけで涙が出てくる。もう随分慣れたと思ってたんだけど……


(弱い……私はまだまだ弱い)


 お父さんのことを思い出したくらいで泣いてるようじゃまだまだだ。体も、心ももっともっと強くならなきゃいけない。


(そうだよね、おとうさん)


 その問いに答えてくれる人はもういない。だけど、今はそれでいい。だって、大切なものはもう受け取っているから……


「私、もっと強くなりたいんです……だって、私はおとうさんの娘だから」


 私を守り、鍛えてくれたあの背中……私はそれに恥じないくらい強くならなきゃいけない。じゃないと、お父さんは一体何のために死んだのか分からなくなってしまう。


(……泣くな!)


 再び涙が込み上げてくる自分をそう叱りつけ、俯きかけた顔を私はぐいっと上げてセオさんの方を向いた。今見るべきは前だ。後ろを向いて泣いてる場合じゃない。


「……立派な父であったのだろうな」


 そう言った後、セオさんは空を仰ぎながら何かを呟いた。よく聞き取れなかったけど、”なのに儂は……”とか聞こえた気がする。


「……エレナ、そなたの覚悟は分かった」


 再び私の方を向いたセオさんの瞳に光るものがある。セオさんにも何か辛い思い出があるんだろうか。


「儂はそなたの父ほど良い人間ではないからの……大したことはしてやれん。じゃが、儂のとっておきの技をそなたに教えよう」


「ありがとうございます、セオさん」


 再び構えた私にセオさんは見たことのない構えを取る。これは一体……


「今の老いた体では一度出来れば良い方じゃろう。良いか、エレナ。よく見ておくのじゃぞ」


 そう言うが早いか、セオさんの体から圧倒的なプレッシャーが放たれる。一瞬で全身が粟立つほどの……


「技の名は〈竜拳〉じゃ。ゆくぞ、エレナッ!」

「はいっ!」


筆者の呟き :

 最近出番が少なかったせいで二話分になってしまいましたが……いかがだったでしょうか? 個人的には好きなキャラなのですが、サブヒロインである彼女の中心の話ってどれくらい需要があるのかが不安です(汗)


 エレナも僕もこれからもっともっと頑張るのでブクマやポイントで是非是非応援をお願いします! 

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