ここから
「……何か用か?」
闘技大会に出す剣を選んだ後、気づけば俺はセオさんにアレックスに会わせてくれと頼んでいた。ちなみにあの剣の鑑定の手配はセオさんがしてくれるらしい。大会には間に合わないだろうとは言われたけど。
「………」
目の前にいるアレックスは何と牢の中にいた。ちなみに服装は会った時と同じ黒装束で変わってない。
「……お前、あの時のライト野郎だな」
「ああ」
足音で分かったのだろうか。だとしたら凄い技術だ。
(ライト野郎という言い方は気に入らない……というか、正直良くわからないが、まあ良いか)
俺はアレックスの前に立った。
「セオさんから事情を聞いてな。顔を見たくなった」
「けっ……あのジジィ、余計なことを!」
闇の中では顔は分からなかったが、アレックスは中性的で中々整った顔立ちをしている。が、今、その顔は俺への苛立ちで歪んでいるが……
「勝利の余韻でも浸りに来たか? それとも敗北者を憐れんで下さるのか、あ?」
アレックスが低い声で凄む。まあ、奴からすれば俺は今、見たくない顔ナンバー1だろうからな……
「いや、凄いと思って」
「は?」
アレックスは心底意味が分からないといった顔で呆けた声を出した。
「あんなに追い込まれたのは初めてだ。足音を聞く技術も毒を使う戦術も凄いと思った。今回俺が勝てたのは運が良かっただけだ」
そう。たまたま『シーフ』のクラスを得ていたから勝てただけ。〈忍び足〉のスキルがなかったら俺は手も足も出なかった。
「俺もあんたみたいに自分の力と向き合わなきゃいけないと思った。そう思えたのはアンタのおかげだ。だから、礼を言いに来た」
どんな力も、どんな自分も使い方次第なんだ。例え気に入らない力でも、きちんとむきあえば大切な物を守る力になってくれる。
(蔑まれながらも自分の力を信じて努力する。誰にでも出来ることじゃないけど……)
傷つきながらもミリーを守るジョシュアの背中が、何が何でも勝とうとするアレックスの必死さが俺に問いかける。自分のプライド以上に大切なものはお前にはないのかと。
(良いか悪いか、それは分からない。でも……)
ジョシュアがミリーを守ったように、アレックスが鍛えた自分の技を誇りたかったように……俺にだって大切なものはたくさんある。
(カッコつけてちゃ全力は出せない。そして全力でやらなきゃ大切なものを失ってしまうかも知れない)
今までも本気だったし、全力だった。けど、どこか自分なりのやり方にこだわっていた……ような気がする。それが悪いことじゃないかも知れないけど……
”王族たるもの、何よりまず自身の王たるべし“
未だにちゃんと分かってはいないこの教えだが、これはもしかしたらそう言う意味かもしれない。上手く言葉には出来ないが……
「けど、お前がジョシュアやミリーにやったことは許されることじゃない。きちんと償え」
「……んでお前に言われなきゃいけないんだよっ!」
アレックスがそう叫ぶ。が、さっきまでとは違う。どう違うかというと……
(……まっ、良いか)
ちなみにアレックスは一緒にいた仲間のことを特に心配していたらしい。口は悪いけど実はかなり仲間想いな奴なんだな。
*
(セオ視点)
「くそっ、あのライト野郎っ……好き勝手言いやがって……」
遠ざかっていくディランの靴音に混じってアレックスの呟きが聞こえるの。言葉だけ聞いていれば文句しか思えぬが……
(また一つ、借りが出来てしまったのぅ)
儂には分かる。ディランの言葉があやつの心に確かに届いたことが。
(正面から向き合ってくれる誰か……お前に必要だったのはそんな相手だったのじゃよ、アレックス)
お主には力を認めてくれる誰かなど必要なかったのじゃ。何故なら皆、お主の力は認めておるからの。
(じゃが、それ故にアレックスを気に入らない奴らは陰口を叩くしかなかった。お主には実力も実績もあるからじゃ)
周りにもう少し力があれば……
いや、アレックスがもう少し頑なでなければ……
(そんなことを考えても意味はないかの)
そう、アレックスも儂達もこれからじゃ。お主は変われるし、儂達も変われる。じゃから、思い通りにならなかった過去を振り返っても意味はない……少なくとも今は。
(これからも期待しとるぞ、アレックス)
小さく聞こえてくる嗚咽を背に儂はゆっくりと立ち上がった。
アレックスの嗚咽 :
泣いてねぇよ! 嗚咽ってなんだよ。ふざけんな! 同情なんて要らねぇよ。俺は俺の力を認めさせてみせる。仲間のためにもな!
あん? アレをやれ? 分かったよ。やれば良いんだろ、やれば!
「ブクマとポイントまだの方はこの機会に是非ご一考ください! ポチッとすれば筆者の執筆パワーが百倍に跳ね上がります!」
ったく、執筆パワーって何だよ……てか最後の何だ? なめてんのか、くそ筆者が! だが、作品への応援はしてくれたら助かる……




