分ってない……
「悪かった。全て話すよ」
正直、ついさっき聞いたばかりのことばかりだから俺はシャーロットに何かを隠した訳じゃない。けど、自分のことばかりでシャーロットのことまで考えられていなかったのは間違いない。
「実は……」
名前と立場を父から奪われたこと
スキルはないが、クラスを授かったこと
そして、俺は全てを取り戻すため旅に出ること
「……なるほど。エドワード様のお考えは分かりました。婚約者としてアンドリューにも礼を言わねばなりませんね」
「勿体ないお言葉です、シャーロット様」
まだ少し残る怒りを抑えながらシャーロットがそう言うと、アンドリューは深々とお辞儀をする。
(ふぅ~、ひとまずこれで何とか)
シャーロットは控えめで穏やかな性格だ。そんな彼女が怒るのは決まって俺のこと。感謝しなきゃいけないな。
「では参りましょうか、エドワード様。隠し通路を使われるのでしょう?」
……ん?
「ちょっと待ってくれ、シャーロット。まさかついてくる気か?」
「そうです」
「そうですって……危険過ぎるよ」
思わずそう口走ると、シャーロットは俺をグィっと睨みつけた。
「だからこそです! 危険なのはエドワード様も同じ。貴方が怪我をされた時、聖女のスキルを授かった私は力になれるはず。いえ、そうするために私は天から〈セイクリッドヒール〉のスキルを授かったに違いありません!」
シャーロットの俺を案ずる気持ちが痛いくらいに突き刺さる。その真摯な想いに俺は心打たれ、同時に感謝した。
(大好きだよ、シャーロット……)
だが……
「気持ちは嬉しいよ、シャーロット。でも、君は女性だ。危険過ぎる」
「シャーロット様。お気持ちは大変御立派です。が、クラスを得るためにはダンジョンに潜ったり、魔物と戦ったりせねばなりません。いくら何でも女性のシャーロット様には危険過ぎます」
アンドリューもシャーロットの同行には反対らしい。ここまで言えば頭の良いシャーロットなら分かってくれるはず。
「分かりました。確かに荒野を旅するなど淑女の振る舞いではありませんね」
良かった。分かってくれた!
ジョキ……
俺が安堵したその瞬間、何かを切る音がした。
ジョキジョキジョキ……パサ
音は更に続き、バッサリと切られた髪が地面に落ちる。そして……
「これでお邪魔にはなりませんよね、エドワード様」
シャーロットは足元に散らばる金糸のような髪を踏んで微笑んだ。
(う、嘘だろ……)
全部分かってないよ。むしろ火に油だったんじゃないか?
「エドワード様。名前と地位を奪われたということは、私はこのままでは貴方と結婚することは出来ないということです」
!?
「……そればかりか、貴方から名を奪った相手と結婚しなければならない可能性さえあります。私は……私はそんなこと、耐えられませんっ!」
シャーロットの瞳から真珠のような涙が次から次へと溢れ出る。ああ、そうか。確かにそうだ。
(分かってなかったのは俺の方だな……)
俺は馬鹿だ……本当に馬鹿だな。
「エドワード様。シャーロット様と行って下さいませ。後のことはこのアンドリューが何とかしましょう」
「アンドリュー……何とかって」
シャーロットの気持ちを考えれば、ここで置いていくという選択肢はない。だが、俺だけでなくシャーロットまでいなくなったら大騒ぎだぞ!
「さてどうしましょう……女装でもしますかな」
「女装って……まさかアンドリューがシャーロットの代わりになるってことか!?」
「ホッホッホ……」
一体何の冗談だよ……でも、まあ、アンドリューなら何とかしてくれるだろう。
「ありがとう、アンドリュー」
「なんの。エドワード様をお願いしますぞ、シャーロット様」
シャーロットが差し出した手をアンドリューは優しく、そしてしっかりと握った。
「では、改めて参りましょう。出口までお送りします」
アンドリューが俺達を先導しようと歩き出したその瞬間……
バリッ!
突然、行く手を阻むかのように地面が割れた!
「どこに行く気だよ、義兄さん」
遅れて鳴った空を裂く音……現れたのは、俺の義弟アレクサンダー!
アレクサンダーからのお願い:
剣聖のスキルを継いだこの俺がこんな場所にまで来なきゃならんとは……
まあ、いい。悪いことは言わんから、ブクマがまだなら今のうちにポチッとしておいた方が良い。次話からは俺の活躍から目が離せなくなるからな! 後余裕があれば……いや、無くともポイントも頼む。筆者の野郎がエタって俺の出番が減るとやばいからな! 頼むぜ!