解毒剤と報酬
「爺ッ!」
「アレックス、素直に負けを認めるのじゃ」
突然現れたのはセオさんだ。
「俺はまだ負けてない。主導権はこっちにあるんだ。あんたにだって俺の解毒剤は作れないだろ!」
確かにセオさんはミリーの様態を見て”毒は専門外だ“と言っていた。やっぱり二人を助けるためにはこいつの言うことを聞くしか……
「やれやれ。別に新たに作って貰わなくとも良い。お主が自分用に持っとるやつを貰うからな」
「「「!!!」」」
な、何だって!
「保険のために持っとるんじゃろ? ああ、返事は良い。どうせ身動きも取れんじゃろうから勝手に貰うことにするぞ」
「おい……ちょっと待て!」
セオさんは拘束されている黒装束の体を探り、小瓶を取り出した。
「これか……」
「くっ……ジジィめ!」
セオさんは憎々しげに睨む黒装束に涼しい顔を向けながら俺達の方を向いた。
「さて、ちょっと片付けねばならんな。ついでじゃから手伝って貰えるかの?」
*
襲って来た奴らと黒装束の奴──セオさんがアレックスと呼んでいた奴だ──をロープで拘束して部屋の隅に置いた後、俺達はミリーとジョシュアに解毒剤を飲ませた。
「ほれ、お主も念の為に飲んでおけ」
「あ、はい。ありがとうございます」
俺はダガーではなく、何か小さな礫のようなものを受けただけで大した怪我はしていなかった。今のところジョシュアみたいに体の痺れもないのだが、後で出て来たら困るから好意に甘えておこう。
「ところで用事はもう終わったんですか?」
解毒剤を受け取りながら俺がセオさんにそう尋ねた。というのも、この護衛の仕事はセオさんが朝まで留守にするから受けた仕事なのだ。
(朝まではまだ結構時間があるよな……)
まあ、用事が終わってるなら良いんだが……
「最初から見とったんじゃろ?」
ヘイゼルがジト目で睨むと、セオさんは頭をかいた。
「バレとったか。結果的に騙すような形になってすまんかったの……」
「え……一体どう言うこと?」
首を傾げるエレナと俺にヘイゼルは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「妾達は囮に使われたのじゃ。あ奴らをおびき出すためにの」
ヘイゼルはそう言うと部屋の隅にいる男達を指差した。
「いや、そこまで狙っとった訳ではないぞ? そういうこともあるかもとは思ってはいたが……」
セオさんは頭をかきながらそう言うが、まあ……つまりはヘイゼルの言った通りだろう。
(いいように使われたってことか……)
だが、不思議と怒りはない。解毒したミリーは次第に回復していくだろうし、俺も一つ成長出来た気もするしな。
”お人好しも結構だが、貰うべきものは貰っとけよ“
ふと誰かの声が聞こえた気がする。まあ、『シーフ』なら言いそうな台詞だな。
「まあ、妾としては別に良い。だが、恩義にはきちんと礼を尽くしてもらわんとな」
「勿論じゃ。余計な手間をかけさせてしまった分は儂個人としても、組織としても十分な礼をするつもりじゃ」
セオさんが真面目な顔でそう宣言する。多分、これは本気だろう。
「だ、そうじゃ。ディラン、どうする?」
「そうだな……」
とりあえず、欲しいものを言ってみるか。
*
「じゃ、私はセオさんのところに行ってくるね」
「ああ、ジョシュアとミリーにもよろしく」
俺達は約束の報酬に加えて闘技大会の基準を満たす剣を用意して貰うことになった。
(剣があればマシンGに負担をかけすぎることなく出場出来るからな)
アレックスが占拠していた本部に良いものがいくつかあるらしく、その中から気に入るものを選ばせて貰うことになっている。
(”晩には片付いてるだろう“って言ってたからまだ少し時間があるな。)
あれから仮眠をとって今は昼過ぎ。セオさんのところに行くまでには時間があるな。
(あ、そうだ。オリヴァーさんの顔を見に行こう!)
オリヴァーさんの様子が気になるってのもあるが、実は話したいことと頼みたいことがあるのだ。
(いるとしたら、ギルドかな)
オリヴァーさんはギルドからの信頼が厚いからクエストに出ていない時にはギルドの仕事を頼まれることもあるらしいのだ。
「ヘイゼル、俺はギルドに行ってくるよ」
「気をつけて行ってくるのじゃ」
俺はヘイゼルに声をかけて宿を出た。勿論、休眠状態のマシンGも一緒だ。
セオ爺からのお願い :
ふぅ……ディラン達には世話をかけたがとりあえず一件落着じゃな。彼らには十分な礼をせんとな。
フム、そなたブクマとポイントがまだじゃな?保険のためにとっておいてあるようじゃが、筆者がエタっては元も子もないじゃろ? ついでじゃからポチッとしてくれんかのぅ?




