奇襲
(……寝ちゃったか)
やはりというか、何と言うか、しばらくするとジョシュアは倒れるように眠ってしまった。
「無理もない。まだ体力が回復してはおらんようじゃからな」
ヘイゼルはそう言うと毛布をジョシュアにかけた。慣れない路上暮らしにミリーの看病……俺達に会うまで苦難の連続だったのだろう。
(スリって犯罪だけど……)
だが、身一つで放り出されたジョシュアに他に出来ることがあっただろうか。年端もいかない子どもを雇う仕事なんてある訳がないし、あったとしてもスリと似たりよったりの仕事だろう。
「良く頑張ったね」
エレナがジョシュアの頬を撫でながら呟くその言葉に今は素直に賛同出来る。
(自分の手を汚しても……か)
何故か胸がチクリと痛む。俺とジョシュアはかなり年の差がある。が、何だか急に俺の方が子どもっぽく思えてきたのだ。
「ディラン、エレナ。交代で休むのじゃ。妾が見張ろう」
三人で協力してジョシュアをベッドに寝かせた後、ヘイゼルは俺達にそう声をかけた。
(……ん? ってことはヘイゼルは寝ないのか?)
幻獣は寝なくても平気なのだろうか。いやでも……
「ヘイゼルは寝なくても平気なの?」
「この体だと不眠というわけにはいかんが、一晩くらいはどうってこともない。怪しい生命反応や魔力反応があれば起こしてやるのじゃ」
ちなみにヘイゼルは生物の生命反応や魔力反応を見ることが出来る目を使った索敵が出来るらしい。
(この暗闇の中では五感を使ったエレナの索敵以上に有効かも知れないな)
ここはヘイゼルの言葉に甘えさせて貰うか……
「ありがとう、ヘイゼル。じゃあ、甘えさせて貰うよ。エレナ、先に休んで」
「ありがとう、ディラン、ヘイゼル」
*
「……ディラン、起きて!」
仮眠をとっていた俺は突然エレナに起こされた。
「怪しい人が近づいてるって、ヘイゼルが」
「っ!」
俺は体を起こすと武器を手繰り寄せ、身に着けた。
(こんな時間に動いてる奴が真っ当な奴のはずがないな……)
大体夜中を回ったところか……
「……もうすぐ来るのじゃ」
先手必勝だな。よし、クラスをレンジャーにして……
(……〈集中〉)
投擲用のダガーを手にしてスキルを発動して待つ。すると、鍵穴からカチャカチャと音がした後、ゆっくりドアが開き始め……
「〈ダブルシュート〉!」
「がっ!」「ぐっ!」
俺のダガーが命中し、二人の侵入者は悲鳴を上げる。侵入者は三人、後一人残っているが……
「〈発勁〉!」
「がはッ!」
二人が倒れた隙をついたエレナの拳に最後の一人もあっさり倒れた。よし、これで……
「まだじゃ! もう一人おる!」
ヘイゼルがそう叫ぶと同時に窓ガラスが割れる音がした!
(狙いはジョシュア達か!)
黒い衣服に身を包んだ相手は完全に闇に同化していて目を凝らしても全く見えない。しかし、生命反応が見える目を持つヘイゼルには見えているようだし、おそらく相手にも俺達の姿が見えているのだろうな。
(……ヘイゼル)
俺がそう心の中で呼びかけるとヘイゼルが念話で返事をくれる。護衛を始める前に敵が来たら俺とエレナに念話を繋げてもらうように頼んでいたのだ。
(……みんな、アレをやるぞ!)
そう声をかけ、俺は休眠状態のマシンGを取り出した!
ピカーッ!
マシンGが光を発して黒装束の敵を照らし出す。そして、同時にその強烈な光は敵の目をくらませ、動きを一瞬封じることに成功した!
「今じゃ! 〈アローウィンド〉!」
「〈気功術 : 水〉!」
ヘイゼルとエレナのスキル攻撃が敵を狙う……が、その瞬間、俺はマシンGを握っていた右手に痛みが走った!
(しまっ──!)
痛みのせいで落としたマシンGから光が消え、辺りは再び暗闇が戻った。
(くっ……光を……)
俺は手探りでマシンGを探そうとするが……
シュッ! カンッ!
何かを投げる音と弾く音……今のはエレナか!
“大丈夫、ディラン?”
”ああ。ありがとう、エレナ“
今は右手の負傷は黙っておこう。それよりも……
“ディラン、動きはあやつには筒抜けじゃ。多分奴は音を頼りに妾達の動きを察知しておる”
音!?……まさかかがもうとした時のちょっとした衣擦れの音で俺の動きを?
”……どうするディラン?“
俺には見えないが、黒装束の敵はどうやら様子見ムードらしい。三体一ではあるが、相手の姿が見えない俺は戦力外……実質二体一だろう。
(だが、それだけに俺は気にしなくてもいい……そう思ってるはずだ)
ならひょっとして……
筆者のつぶやき :
ヘイゼルの生命反応、魔力反応を見る力について
ヘイゼルの索敵も万能ではありません。勿論、生き物が多い森の中だったりするとエレナに軍配が上がるわけですし、敵が投げたナイフなどは生物ではないので察知することが出来ません。
マシンGからのお願い :
エドワードサマがピンチ! ハヤクワタシをキドウしてクダサイ! ドコカにスイッチが……ム、ぶっくまーく? コレか? ミサナマもごキョウリョククダサイ!




