追跡
「待てっ!」
俺は視界の端にいる少年を追いかけるが、中々追いつけない。単純にすばしっこいというのもあるが、人混みや露店など色々なものが障害になって中々進めないのだ。
(むしろそう言うルートを選んでるのか……)
相手はかなりスリをやり慣れているのだろう。こりゃ単純に追いかけているだけじゃ駄目かも知れない……
“ようやく冷静になったな、ディラン”
ステータスからの通知のように頭の中にヘイゼルの声が響く。これは……
(ヘイゼルからの念話か?)
後ろを走るヘイゼルが魔法を使って俺の頭の中に話しかけてきたのだ。
(不思議な感覚だな……)
熟練の魔法使いや高度な魔道具でしか出来ないと聞いていたが……幻獣のヘイゼルなら出来てもおかしくはないないか。
”今、エレナが先回りをしておる。そなたはこのまま追いかけるのじゃ“
(分かった!)
エレナは五感に加え、方向感覚なども鋭いから数日滞在しただけでも街の地理をほぼ完璧に把握出来る。確かに先回りすることも可能だろうな。
(そこは真っ直ぐじゃ!)
十字路で少年を見失いかけた俺にヘイゼルが道を教えてくれる。言われた通りに進むと……
「ここまでよ! 盗んだ物を返して!」
少年の前にエレナが立ちはだかっている。流石に少年も観念したのか、両手を上げた。
「ケッ……ちょっとからかっただけで何も盗っちゃいないよ」
「嘘だ! お前は──」
「なら好きに調べろ」
両手を上げた少年はふてぶてしい顔をしてそう言い放つ。この期に及んでこの自信……一体何でなんだ?
(見つからない自信があるというのか?)
首を傾げながらも調べてみるが……ポケットや帽子には何も入っていない。
「だから行ったろ? 気が済んだのなら俺はもう帰るぜ」
そう言って少年が踵を返そうとした瞬間……
「そうじゃな。お主の家まで取りに行った方が良さそうじゃな」
「「「!!!」」」
少年の動きがピクリと止まる。こいつの家だって!?
「妾の目は魔力を捉える。そなたが途中でディランから奪った物を置いた場所……そこがそなたのねぐらと見た。別にそなた抜きで行っても良いが……」
「……悪かった」
少年は今度こそ本当に観念したらしい。俺達に深々と頭を下げた。
「盗んだものは返す。俺のこともどうしてもらっても構わない。だから──」
「とにかく盗んだものをディランに返してからじゃ」
「……分かった。こっちだ」
俺達が力無く歩き出した少年についていくと、彼は例の十字路の右隅で立ち止まった。
「……これだ。確認してくれ」
少年から受け取ったのはメダル状に変形したマシンG。良かった、無事だ!
「ヘイゼル、エレナ、ありがとう」
「良かったね」「何のこれしき」
俺が二人に礼を言うと、突然誰かが咳こむ音がした。
「お兄……ちゃん、どうしたの?」
弱々しい声と共に木箱の裏で誰かが起き上がろうとする気配がする。すると、少年は滑り込むように声のもとへ走った。
「何でもない。お前は寝てろ!」
「お兄ちゃん、また危ないことを……」
「してないから! ちょっと道案内をしてただけだから」
「分かった……」
再び俺達の前へ出てきた少年は、俺とエレナに追い詰められた時のふてぶてしい態度とは似ても似つかないほど落ち込み、項垂れている。この少年、もしかして……
「とにかく場所をかえるかの。まだ道案内も途中じゃし」
*
さっき少年を追い詰めた場所まで戻った俺達はそこで彼から話を聞くことになった。それによると、彼らは元々ある盗賊団の一員だったとのこと。
(まあ、手並みは鮮やかだったもんな……)
ただ、盗賊と言っても彼らは遺跡の盗掘とかが専門で、本隊は今、大きな遺跡の調査に言っているらしい。まだ半人前だった少年はナドゥで盗賊団の本部を守るように言われたのだが、ここでトラブルが起こった。留守を任されたある幹部が反乱を起こしたのだ。
(で、追い出されて路上生活って訳か……)
さらに具合の悪いことに本部から逃げる前に少年の仲間──さっき、彼を“お兄ちゃん”と呼んでいた子だ──が毒を盛られてしまったらしい。少年は高価な解毒剤を手に入れるために止むなく盗みに手を染めた……という訳だ。
(うーん、どうしたものか)
俺にはもうこの少年をどうこうしようと言う気はなくなっていた。だが、ここで”はい、さようなら“で良いのだろうか……
(でも、この子達は……)
そんなことが頭をよぎったその時……
「フム、これはどんな状況かな……?」
ヘイゼルからのお願い :
皆は分かったと思うが、妾はマシンGに込められた魔力を見ていたのじゃ。つまり妾はエレナと同じように周囲を感知することが出来るということじゃ。凄いじゃろ? 例え剣になれずとも凄いじゃろ?
……とここで恒例のお願いじゃ。ブクマやポイントがまだの方はこの機会に是非頼むのじゃ。叶えてくれたらそなたのピンチを一度防ぐ結界を張れるかもしれないのじゃ!




