補足事項
「補足事項?」
そう問うた俺にアンドリューは深く頷いた。
「“王族たるもの、無知なる者の無礼には赦しと知識を ”。この教えはこう続きます。”ただし、相手が王族や強者なら話は別! とっちめて格の違いを分からせてやれ!“と」
「は、はぁ?」
悪戯っぽく笑うアンドリューに俺は呆れ、そして少し遅れて笑いがこみ上げてきた。次第にそれで足りなくなった俺は体を折り、笑い転げた。だって、こんな馬鹿な話は聞いたことがない。何故なら……
「アンドリュー! それ、今作っただろ!」
「ホッホッホ。亡き王妃様のお気持ちを代弁しままでですぞ」
アンドリューは見抜いていてくれていた。理不尽な仕打ちで怒りと憎しみではきちれそうになった俺の心を。そして、同じように怒り、背中を押してくれたのだ。
“我慢することはない。馬鹿にした奴らをぶちのめせ!”
言外に秘めたアンドリューの想い、それが嫌というくらい俺には伝わった。
「なら、力をつけないとな」
この本によれば、クラスとは様々な条件を達成することで得られるものらしい。そして、更にクラスのLvが上がることでクラスに応じたスキルが得られるともある。
(色んなクラスを得ようと思ったら、城の中でぬくぬくしてる場合じゃないな)
クラスを得るための条件はいくつか書かれているが……中には魔物と戦ったりしないと達成出来ないものもあるからな。
「その通りです。エドワード様は力を得るため、自ら城を出ていかれるのです。追放された訳でも、追い出される訳ではありません」
クラスを得ようとすれば、追放されようがされまいが、どの道俺は城を出なければならないだろうな。
「あの教えの意味、今ならお分かりになるのでらないですか?」
“あの教え”とは、亡き母とアンドリューが教えてくれた王族の心得の最後の一つだ。それは……
(”王族たるもの、何よりまず自身の王たるべし“)
正直あまり意味が分かっていない教えの一つではある。“感情に振り回されないこと”という意味かなというくらいにしか思っていなかったが……
(運命は自分で選び取るもの、ということか?)
俺が城を出ていくことは決まっている。が、それを”追放されたから出ていく“なのか、“自らの意思で出ていく”のか、そこで全てが変わっていくということか。
「ああ。俺は自分の意思で城を出るよ、アンドリュー」
「それでこそエドワード様です」
誇らしげな表情で微笑むアンドリューは俺に旅をするための一式とそれをいれるためのマジックポーチを渡してくれた。
(これ、かなり高いやつじゃないか?)
城の中では誰も使わない──何故ならその必要がない──マジックポーチだが、アンドリューの勧めでたまにこっそり城下街を出歩いていた俺はその価値を知っていた。
(小さいのにかなり容量が大きい……)
腰にくくりつけたマジックポーチは全く動きの妨げにならない。にも関わらず、まだまだ余裕があるのだ。
「私が若い頃使っていたものです。よろしければ」
「ありがとう、アンドリュー。大切にするよ」
アンドリューには何から何まで世話になってしまったな……
(成長した俺の姿を見せてやらないとな)
そして、証明するのだ。皆が間違っていて、アンドリューが正しかったのだと言うことを。
「さあ行きましょう、エドワード様。夜が明ける前に森に入っていたほうが宜しいかと」
城の裏口は断崖絶壁と滝に囲まれているが、ここにも隠し通路がある。だが、距離はかなりあるからな。
「ああ、行こう」
俺がそう行ったその瞬間……
「その旅、勿論私も連れていって下さるのですよね?」
不意に背後から声がして、俺は動きが止まった。いや、止めたというよりも止められたというべきか。
(これは……怒ってるな)
俺が動きを止められたのは、声に驚いたからじゃない。その声から隠された怒りが……そう、いまだかつて彼女が見せたことのないほどの怒りを感じたからだ。
「シャーロット……君は」
「エドワード様。まさか私に何も言って下さらないばかりか、城に置いていくなどと仰る訳はありませんよね?」
淑女らしくにっこりと微笑むシャーロットは例えようもなく美しい。そう、まるで絵画に描かれた戦女神のように……
王族の豆知識:
マジックポーチ
空間を広げる魔法を付与することで容量を増やした魔道具。また、中の時間経過を緩やかにしたり、止めてしまっているものもあるとか。形状によって他にマジックバックやマジックリュックなどがある。
容量にもよるが、基本高価な品でアンドリューが渡したものは実は国宝クラスの貴重品。
シャーロットからのお願い:
私が怒ってる? そんなことはありません。淑女たるもの人前で感情を出すなど恥ずべき振る舞いですから。ええ、そうですとも!
……ですが、皆様がブクマやポイントでご支援下されば私の気持ちも安らぐことと思います。淑女にあるまじきお願いではありますが、皆様からお心遣いを頂戴できれば嬉しく思います。どうかよろしくお願いいたします。