誤算
(サイラス視点 )
(くっ……何だよ、この数は!)
ゴリドの森に入るなり俺達はゴブリン達の襲撃を受けた。ゴブリンごとき大した敵じゃないはずだったのだが……
「サイラス、一匹こっちへ来る!」
「任せろ!」
斥候のシオドアを倒したゴブリンが俺に向かって棍棒を振り上げる。避けたいところだが、後ろにはヒーラーのアデラがいるからな……
(盾で受けて体勢を崩してから反撃するか)
そう、いつもならそれで危なげなく勝利することができていたのだが……
ドンッ!
がっ……なんだよ、この重さは!
(ちくしょう、ゴブリンなんぞに負けてたまるかッ!)
俺は渾身の力で攻撃に耐え、ゴブリンに一撃を入れた!
「ギギギッ! ギャッ」
よろめくゴブリンに魔術師のマイロの魔法が飛ぶ。それでようやくゴブリンは動きを止めた。
「大丈夫か、みんな」
「今、手当します!」
森に入ってからまだ三十分も立たないのに俺達はもうボロボロ。一体どうなってやがるんだ?
「数も多いが、俺達が戦って来たゴブリンよりも強いな……」
「LVが高いんだろう。あまり冒険者が入らない場所から来たんだろうな」
マイロの言う通りかも知れない。この辺りはナドゥに近いからゴブリンを定期的に間引いているが、人里離れた荒れ地や森なんかだとそうはいかないからな……って今はそんなことどうでもいい!
「ナドゥに戻った方が良くないか、サイラス。この森は今、明らかに異常だ」
「治療はしたけどシオドアはまだ全快してはいないし」
マイロとアデラの言葉に俺は一瞬頷きかけるが……
「いや、駄目だ」
あのディランとか言うど新人でさえゴブリンを二十匹倒して帰って来たんだ。俺達はまだ八匹……このまま帰ったらいい笑い者だ!
「まだ限界じゃないだろ。あのど素人でさえ立って帰って来たんだ。D級冒険者の俺達なら大丈夫だ」
「しかし……」
マイロが何かを言いかけたその時、突然おぞましい叫び声が辺りに響いた!
「……魔物に見つかった」
斥候のシオドアが見つめる先からは何かデカい奴の足音が……いくらなんでも早すぎるだろ!
「ヤバい、オーガだ!」
遠くを見るスキルで近づく魔物の姿を確認したシオドアが悲鳴を上げる。オーガか……確かにD級の俺達じゃ荷が重いな……
(……って何を弱気になってんだよ、俺は!)
あのど素人でもオーガと戦って生きて帰ってきたんだ! 遅れを取ってたまるかッ!
「俺が前に出る。マイロとアデラは援護を頼む。シオドアは二人のフォローだ!」
皆の返事をかき消すようにオーガが唸り声を上げる! 茂みの隙間から奴の体がチラチラ見える。くそっ……デカいな。
「来いよ、木偶の坊!」
「ガぁァァッ!」
潰れた片目の痛みのためか、怒り狂うオーガは俺を見ると、速攻で殴りかかって来た!
(オーガの腕力は確かにすげぇ。でも、俺にはスキルがある!)
俺のスキル、〈カウンター〉は相手の攻撃力に応じて自分の攻撃力を上げるスキル。ど素人が凌げたのなら俺だって……
ブン! ボカッ……
単調なオーガの攻撃に〈カウンター〉を合わせるのは容易い……が、奴の攻撃はスキルで威力が上がっているはずの俺の剣をものともせずに俺を吹き飛ばした!
「がっ……」
吹き飛ばされ、木に体を打ち付けて倒れた俺をフォローするためにマイロとシオドアが攻撃する。その隙にアデラが簡単な治療をしてくれた。
(くそっ……何で!)
オーガは確かに強い。けど、あいつ等は一撃防いで逃げたって聞いたぞ!?
「とにかく一旦退却だ! あれを!」
シオドアの言葉に俺は保険として持ってたアイテムがあったことを思い出した!
(そうだ、閃光玉!)
あいつ等はこれで逃げたと聞いた。オーガは馬鹿だからまた引っかかるだろ!
カッ!
光が収まった瞬間、駆け出すと……
ボコッ!
は、はが?
空が揺れ、口の中に鉄の味が溢れる。何かと思えば、殴られたのか?
(莫迦な……閃光玉は)
気づけば奴は俺をしっかりと見つめている。くっ……目を閉じて閃光玉に耐えたのか!?
(とにかく立たないと……)
だが、立つどころか、どちらが地面かさえ分からない。俺が最後に見たのはオーガのニタついた顔だった。
筆者の独り言:
書ききれてませんが、ディラン達に連絡した魔道具、『風の囁き』を使ったのは斥候のシオドアです!
見栄を張ったサイラスはどうなったのか……今後の展開に乞うご期待! え、どーでもいい?
……そういや奴にこんなに字数をかける必要があったのか?
とにかく次話はディラン達の話に戻りますので是非ご一読下さいませ! ブクマなどまだの方はポチッとしてから明日を待って頂けると見逃しが防げて安心ですよ〜〜




