窮地
ガキィィン!
エレナに振り下ろされたオーガの腕は間一髪、オリヴァーさんの〈パリィ〉が防いでくれた。
(……何ッ!)
が、信じられないことにオリヴァーさんの〈パリィ〉はオーガの腕を弾くどころか、押し負けてしまいそうだ。
(ヤバい、このままじゃ逆にオリヴァーさんが体勢を崩されてしまう!)
スキルを発動して尚、防ぎきれない力……なんて奴だ!
「早……く逃……」
歯を食いしばりながらオリヴァーさんは呟きが聞こえる。けど……
「〈パリィ〉!」
俺はまさに今、オリヴァーさんの腕を弾こうとしたオーガの腕に向かってスキルを発動! 一瞬オーガの腕を止めることに成功した!
「〈気功術 : 水〉ッ!」
その瞬間、再びエレナがデバフ攻撃を放つ。それにより一瞬しか耐えられなかったであろう俺のパリィがさらに一〜二秒耐えられるようになる。そしてその隙に……
「閉じろッ!」
予め決めていた符牒……俺達が目を閉じた瞬間、瞼を焼くような光が爆発した!
「あギャギャぎゃぎゃ……!」
オーガは残った目を押さえながら後ずさり、めちゃくちゃに腕を振り回す。が、既に俺達はその場にはいない。”オリヴァーさんが合図をしたら目を閉じ、光が収まったらとにかくその場から離れる“、それが事前の打ち合わせた行動だからだ。
*
「……大丈夫か、みんな」
エレナのおかげで合流し、森を出てからオリヴァーさんがそう尋ねると、皆は何とか首を縦に振った。
(あ、危なかった……)
正直、死んでもおかしくなかったと思う。森を出た今でさえ心臓はバクバクと波打ち、収まる気配がない。さっき声を発しなかったのもまだ恐怖と興奮で歯がガタガタ鳴っているせいだ。
「とにかくナドゥに帰る。話はそれからだ」
オリヴァーさんが女の子を背に抱えた後、俺達はナドゥに向けて歩き出した。道中、あのオーガらしき声を聞いた気がしたが、多分気のせいだろう……
*
「ど、どうしたんですか、一体!?」
冒険者ギルトに着き、クエストの報告をしようとカウンターに着くなり、受付の女性は悲鳴を上げた。まあ、分からないでもない。なんてことないクエストに向かったはずが、オリヴァーさんまで満身創痍なんだからな。
「……とにかく報告したい。後、こいつらをどこかの部屋に」
「……分かりました」
有無を言わせぬオリヴァーさんの雰囲気に受付の女性は顔を青ざめさせながらも俺達を部屋に案内してくれた。
「済まないが、少し待っててくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
本来ならクエストの報告はパーティ全員ですべきだ。が、今回は事が事だけにまずオリヴァーさんが上に報告を上げるんだろう。
(それに……この子を一人にしておく訳にも行かないしな)
オリヴァーさんにおぶわれていた女の子は今、俺達と共にいる。まだ名前さえ聞いていないこの子のことも放ってはおけないからな。
「もう大丈夫だからね。どこか痛いところはない?」
優しく声をかけるエレナに女の子は首を振る。まあ、とりあえずこの子に怪我がなくて良かったよな。
「どうしてゴリドの森に一人で? 魔物と出くわす危険がある場所なのに」
「あの……えっと」
俺の問いに女の子は口ごもる。おまけに表情を窺おうとしても顔を伏せてしまう始末……一体どうしたんだ?
“……ディラン、ここは任せて”
エレナの囁きに俺は小さく頷いた。何だかため息をつかれた気がするが、気のせいか?
「急に色々聞いてごめんなさい。大変なことがあったと思うけど、もう大丈夫。ここはナドゥという街の冒険者ギルドなの」
エレナがゆっくりと話し出すと、女の子も徐々に顔を上げる。やっぱり女の子には女の子の方が上手くいくのかな……
「私はナドゥの冒険者エレナ。あなたの名前は?」
「……オーロラ」
「そう。オーロラ、いい名前ね」
エレナがにっこりと笑うとオーロラと名乗った女の子もぎこちない笑みを返す。それからも少しずつ二人の話は続いていった。
(オーロラはゴリドの森の傍にある集落に両親と住んでいるのか)
街に近いと魔物も少ない。街に住めない人は傍に集落を作って暮らしていることもあると聞いたことがある。
(で、両親が体調を崩したから一人で森に薬草を採りに来た、と)
えらい娘だな……早く両親の元へ返して上げたいな。
「いっぱい集めたかったからつい……」
それで普段いかない場所にまで足を伸ばしてしまったらしい。
「でも、ご両親の分だけならあんな場所まで来なくても良いんじゃない?」
確かに。俺達がオーロラと出会ったのは森の奥。実際、チラッとみたオーロラの籠にはかなりの薬草が入っていたな。
「それは……」
エレナの問いにオーロラが言い淀んだその時、ドアをノックする音がした。
エレナからのお願い:
全く……ディランってちょっとデリカシーがないなぁ。まあ、良いとこもいっぱいあるんだけどね。
それにしてもゴリドの森で一体何が起こってるんだろう? 続きが気になる人は是非ブクマを……ってもうしてくれてる! ありがとう! しかもポイントまで。私、嬉しい……




