勉強
「そんなに勉強したいなら体にしっかり教えてやるよ……忘れられないようにな!」
男は背負った剣の柄に手を添えた。
(来る!)
俺も遅れて剣を握る。後ろにはエレナがいる。防御するしかない!
ブン!
男が剣を振るった瞬間、俺はスキルを発動した!
「〈パリィ〉!」
スキルが発動し、男の剣が速度を失う。いや、違う。スキルの力で俺の動体視力が上がっているんだ。
(速い……けど、エレナのお父さんほどじゃない!)
スキルで上がっているのは動体視力だけでなく、剣速もだ。斬撃の軌跡を先読みし、横から叩くように剣をぶつけると……
カィィィン!
男の剣は弾き飛ばされ……
ザク……
男の足元に突き刺さった。
「……!!!」
まるでそれ以上進むのを止めるかのように刺さった剣を見て、男は顔色を変えた。
「おい、見たか! あの新入り、サイラスの剣を防ぎやがったぞ!」
「しかも、あの位置……まさか狙ってやったのか!?」
「つーか、俺、二人が何をしたのか良くわからなかったんだけど……」
周りの冒険者がガヤガヤと騒ぎ出す。やっぱりこのサイラスとか言う男は中々の強者らしい。
(エレナのお父さんのおかげでスキルの熟練度とクラスレベルが上がったおかげだな)
でも、それにしてもさっきの動きは速かったな……確認を忘れていたけど、ひょっとしてレベルが上がってるのか?
「……面白えな」
サイラスがそう言うと周りのお喋りはピタリと止んだ。皆、気づいたのだろう。奴の様子がさっきまでと変わったことに。
「ちょっとからかってやるつもりだけだったが、気が変わったぜ」
サイラスはそう言うと構えを変えた。何かヤバい。俺は油断なく構える。
(スキルを使う気か……)
どんなスキルかは分からない。が、間違いなく強力なものだろう。
「行──」
その時、突然短剣がサイラスの顔をかすめ、足元に刺さった!
「そこまでだ。スキルを使うつもりなら俺もだまっちゃいないぞ!」
そう声を発したのは隅の方にいた男。普通なら探すことさえ困難なのだろうが、その迫力故に目が自然と引き付けられる。
「ぐ……オリヴァー!」
「警告はしたぞ、サイラス。命が惜しいならそれを越えないことだ」
オリヴァーが言っているのはサイラスの剣と短剣のことだろう。丁度交差して☓印になっている。
「くっ……行くぞ!」
サイラスがそう言って踵を返すと俺の周りからは二〜三人の足音がする。奴の仲間か? 気づかなかったが、囲まれかけていたらしい。
「ありがとうございます。助かりました」
「気にするな。気まぐれだよ」
エレナがオリヴァーに礼を言うと、彼は手をひらひらと振るいながらそう言った。
「いえ、助かりました。俺からも礼を言わせて下さい」
エレナに続いて俺も頭を下げる。実際、危ないところだったのだ。あのサイラスとかいう男に気を取られていて、囲まれかけていたことなんかには全く気づけてなかったからな……
「何かお礼にできることがあれば」
下手したら命が危なかったんだ。何のお礼もしないというのはあまりだろう。まあ、出来ることってそんなに色々ある訳じゃないけど……
「いや、そんなつもりじゃ……あ、じゃあ頼んじゃおうかな?」
「何でしょうか?」
「一緒に受けて欲しいクエストがあるんだ。手伝ってくれると助かる」
手伝って欲しいクエスト? この人かなり強そうだけど、冒険者になりたての俺達で力になれるのかな?
「私達でお役に立てるのでしょうか?」
「大丈夫だよ、初心者用の場所だから。それにサイラス相手に有れだけ立ち回れるなら文句なしだ。ちょっと事情があって受けなきゃいけないクエストなんだが、生憎仲間が出かけててな」
なるほど、そう言うことなら役に立てそうだな。
「ついでに効率の良い狩り場とか注意した法が良い場所とか色々教えてやるよ。どう? 悪くない話だろ?」
俺がエレナの方を伺うと、彼女は一つ頷いた。エレナも乗り気らしい。
「よろしくお願いします」
「じゃあ、まずはパーティの登録を──」
その時、受付嬢が申し訳なさそうに声を上げた。
「申し訳ありません。まだ、このお二人の冒険者登録がまだなのですが……」
あ、まだ手続きが途中だったこと忘れてた……
サイラスからの警告:
あん? 何か文句あるのか?
──筆者からの制裁!──
あ、あの……申し訳ありませんでした。調子乗ってました。
しっかし、あのディランとか言う新人……間違いなくどっかのボンボンだな! 冒険者舐めてやがる! とっちめてやるからな!
あ? 今笑ったろ? この先俺がざまあ対象になるとか思ってるんだろ? 残念だが、現実はそんなに甘くねぇよ。後で俺の実力をしっかり見せてやるからちゃんとブクマしておいてくれよ! 絶対だぞ!?




