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追憶の血石

「ひっく……ひっく」


 白んできた空の下でエレナは再び嗚咽を漏らす。無理もない。たった今、父親と二度目の別れをしたばかりなのだから。


(しばらくそっとしておくか……)


 俺は周囲に目を走らせた。大丈夫だとは思うが、もう魔物などの危険な生物を追い払ってくれていた人はいないのだ。警戒は自分達でしないと。


 キラッ!


(……ん?)


 再び視線をエレナに戻す。すると、俺は彼女の近くにキラリと光る何かが落ちているのに気がついた。


(これは……)


 朝日に光るそれは丁度エレナのお父さんの心臓があった場所にあった。


(……綺麗だな)


 真珠のようなに光る石は貴金属や宝石に疎い俺でさえ一目で惹きつけるほど美しい。間違ってもこんなところに偶然落ちているようなものじゃないな……


(調べて見るか。〈鑑定:素材〉!)


 レンジャーのクラスレベルが3に上がったことで覚えた〈鑑定:素材〉は自然から採れる素材に限り、効果や性質を知ることが出来るスキルだ。


◆◆◆


追憶の血石

 獣人の体内で稀に精製される特別な石。血族の危機にあった時、その真価を発揮すると言われている。


◆◆◆


 !!!


(これは間違いなくエレナのお父さんが遺したものだ)


 どんな力が秘められているのかは分からないし、使い方なんてもっと分からない。けど、エレナのお父さんが遺したものなら彼女が持っているのが一番良いに決まってる。


「エレナ」

「……ご、ごめん。もう大丈夫だから」


 何とか立ち上がったエレナはあまり大丈夫そうには見えなかったが、それでももう泣いてはいない。


「これを。どうもお父さんがエレナに遺したものらしいんだ」


「お父さんが私に……分かった。大切にする」


 エレナは俺が渡したソウルオブブラッドを大切そうにしまった。これはエレナのお父さんの形見。きっと彼女の心の支えになってくれるだろう。


「ディラン、先に行こう!」

「……ああ」


 俺達は朝日を浴びながら出口へと向かった。出口と言ってもその先にはまだ森が広がっている。何とか街に出たいものだが……


「ディラン、こっち!」

「道が分かるのか?」


 俺が驚くと、エレナは自慢げに胸を張った。


「もっちろん! だって私のお父さんは獣人だよ? だから、娘の私も方向感覚には鋭いの。じゃ、お先!」


「あっ、ちょっと待──」


 俺は全力でダッシュするエレナを慌てて追いかけた。



 走り続けた俺達はやがて川に着き、そして街道に出た。どうもエレナは逃げてきた道を覚えていたらしい。それを逆に辿っただけだと言っていたが……内心複雑な想いがあるんじゃないだろうか。


「私の方向感覚は凄いでしょ、ディラン!」


 だが、そう言って微笑むエレナからはそんな雰囲気は微塵も感じられない。それはつまり、余計な気を遣わないでくれと言うことなんだろう。


「ああ、凄い! 街も見えてきた。迷わずここまで来れるなんて助かったよ」


「えっへん!」


 俺の褒めに胸を張るエレナ。だが、俺は内心今後の方針で迷っていた。


(さて、身分をどうするかな……)


 俺は追放された身だし、エレナも事情は分からないが追われているらしい。旅を続けるためには不自然に思われないような身分というか、立場が必要だ。


(行商人とかが理想だが……流石に無理だな)


 実は俺は何度かアンドリューと共に城の近くの街に言ったことがある。”王族たるもの、民草の想いを汲み取りながら行動すべし”って教えのためだが、流石に商売が出来るほどの知識はない。


(……エレナが行商人ってのも無理があるよな)


 小柄で可愛らしいエレナが行商人ってのも不自然だ。店の売り子とかなら全然ありだけど……いや、それにしては可愛い過ぎるか。


「どうしたの、ディラン。難しい顔をして」


 どうも顔に出ていたらしい。俺はエレナに自分が悩んでいたことを話した。すると……


「何だ、そんなこと! だったら冒険者になったら良いじゃん!」


 冒険者か……勿論それは真っ先に考えた。新たなクラスを手に入れるにしろ、クラスレベルを上げるにしろ、魔物と戦ったり、ダンジョンに潜らなければならない可能性は高い。そうなると冒険者になるのが手っ取り早いのは確かだ。


(けど、エレナを危険に晒してしまう……)


 エレナのお父さんの心情を考えると、それは流石にどうなのか……


「私、ディランの助けになりたいし、お母さんの行方も探したいの。そのためには多分力が必要。だから……」


 ……!


(そこまで考えていたのか……)


 エレナを危険から遠ざけることばかり考えていて彼女が何を考えているのかなんてちっとも考えられていなかった。


(……腹をくくらなきゃな)


 エレナも巻き込むんだ。彼女にかかる火の粉は俺が全て払わないとな!

シャーロットからのお願い:

 エレナは健気ね……それに強い。私も見習わなきゃ。エドの責任感の強さは良いところでもあるけど、ちょっと心配……かな。

 あっ、ごめんない! 皆様の前ではしたない。どうか忘れて下さいませ。でも、ブクマするのを忘れていた方々は是非この機会に! 次話でも色々大変なことが起きそうな気がしますから……

 

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― 新着の感想 ―
父の遺したものは、もう一つありましたか。 エレナの心の整理はまだ大変でしょうが、心の支えとなってくれるのではないでしょうか。 壮絶かつ貴重な経験を共有したエレナとの仲は、とても密接なものになったと思…
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