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おやすみなさい……

 エレナの覚悟に合わせるように彼女のお父さんは立ち上がる。おそらく自我を保てる時間はもうあまり長くはないことが分かってるんだろう。


 ジクジク……ジクジク……


 邪神の印はじわじわと、そして確実にエレナのお父さんの体に広がっていく。体のアンデット化が進んでいるにも関わらず、正気を保つ……それは生半可な意思や覚悟で出来ることじゃない。言うなれば、自分の体が壊死して蛆が湧いていくのを座視しているような……いや、それ以上か。


「……行きます」


 俺は剣を構えた。全力で討つ、それがエレナのお父さんに対する敬意と感謝を示すもののはずだから……


 ダッ!


 俺の突進をかわそうとエレナのお父さんが体をずらす。このまま行けば、突進をかわされた俺は背中をさらしてしまうのだが……


 ボコッ!


 それを待っていたエレナの拳が突き刺さる。それに気を取られている間に俺は立ち止まって距離を取る。


「〈ダブルシュート〉!」


 スキルを発動しながら背に投擲用ナイフを投げる。それと同時に俺は前へ出た。


(このままじゃ間に合わない……か)


 ここに来て邪神の印の侵食のスピードが上がっている。が、俺達の攻撃はどれも決定打にはなってない。単純な実力差もあるが、アンデットとなったエレナのお父さんの防御を貫くほどの攻撃力が俺達にはないのだ。


(意識を飲まれる前に倒すには、急所を狙うしかない……)


 普通に攻撃を当てるだけでも苦労しているのに急所を狙うなんて更に難度とリスクが跳ね上がる作戦だ。が、やるしかない。俺は覚悟を決めた。


(クラスを『剣士』に変更ッ!)


 剣の間合いに捉えた瞬間、俺は剣を抜きながらクラスを『剣士』に変えた。そして……


「〈ダブルスラッシュ〉ッ!」


 〈ダブルシュート〉で足を止めたところからの〈ダブルスラッシュ〉での攻撃……だが、それはあっさりと防がれた。


「ディラン!」

「狙え!」


 エレナのお父さんの拳が迫る間際の短い言葉……これで俺の意図が彼女に伝わるかどうかは分からない。が、俺は信じる。エレナなら理解してくれると。そして……


 ドカッ!


 意識を吹き飛ばすには十分すぎる攻撃をまともに食らった俺は膝を折り、地面に倒れ──


 ブン!


 白くなっていった視界が突如色を取り戻す。俺は倒れずに何とか踏みとどまり、エレナのお父さんに向きあった!


(よし、〈危機一髪〉が効いてくれた!)


 『剣士』のスキル、〈剣の道〉は武器攻撃、スキルの強化に加えて、条件を満たすと戦闘不能になるダメージを受けても僅かなHPを残して耐えることが出来る〈危機一髪〉という効果を得るスキル。試したことがない効果に命運をかけるという

一か八の賭けだったが、うまくいった!


「〈ヘビーエッジ〉!」

「〈発勁〉!」


 俺の剣とエレナの拳が前と後ろから心臓に突き刺さる! 心臓は既に動いてないが、多くのアンデットは心臓に核を持つ。だから……


 ドカッ! バリィィン……


 何かを砕く手応え。これは……


「……アァァァ」


 俺達が飛び退いた瞬間、エレナのお父さんはゆっくりと崩れ落ちた。


「おとうさん!」


 エレナが駆け寄ると僅かに頭を動かすが、もうあまり力は残ってないらしい。既に手足の先が灰になり始めている。


(灰化……アンデット消滅の前兆だったな)


 理から外れた命の代償なのか、アンデットは骸を残さない。体は灰になり、すぐに消滅してしまう。聞いてはいたが、まさかこんなに悲しいことだとは思っても見なかった……


「おとうさん! おとうさん!」


 エレナの呼びかけにももう何も答えない。ただただエレナの顔を見つめているだけ……


(立派なお父さんだな……)


 恐らくエレナを守って戦う内に力尽きたのだろう。そして、死してなお残る娘への想いにつけこまれ、アンデットと成り果てたのだろう。


(でも、それでも最後までエレナを守り抜いたんだ……)


 言葉も、意思も、命すらを失ってもエレナへの想いだけは手放さなかった。本当に凄い人だ。


「……エレナ」


 俺はなおも泣きじゃなくるエレナの肩に手を置いた。


「笑顔で送ってあげよう。お父さんはもう十分頑張ってくれただろ?」


「……!」


 エレナの瞳から再び涙が溢れそうになる……が、彼女は必死で踏みとどまった。


「うぐっ……ひっく……」


 エレナは涙を袖で拭う間さえ灰化は進む。もう灰になっていないのは頭と胸だけ。


「……おとうさん、ありがとう」


 そう言ってエレナが微笑むと、お父さんはゆっくりと目を閉じた。灰化はどんどん進み、もう頭しか残っていない。


「おやすみなさい……だいすきなおとうさん」


 エレナの言葉と共に灰は雪が溶けていくように消えていった……

 



筆者の独り言:

 いつも読んで頂きありがとうございます。エレナ登場からこのシーンまでは構想段階からあるアニメのEDテーマ曲を良く聴いていました。明言は避けますが、転生した魔王が夢想する話(二期)のEDテーマ曲です。ん? 大分昔じゃね? 時が経つのは早いなぁ……

 さて、恒例のお願いです! 先に謝ります! 欲しがってすみません! でも、ブクマやポイント欲しいです(コラ!) 知っておられる方もおられると思いますが、ブクマ&ポイントが入っているか否かで僕達モノ書きのテンションはまるで変わってきます! 貧乏暇無しの社畜生活を送っている僕らにとってブクマやポイントは筆を勧める貴重な栄養源です。まだの方は是非……お願いしたいたいです。

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― 新着の感想 ―
切なすぎる白熱のバトル。 そしてエドワードたちが積み上げてきた修行の成果による決着。 最期まで言葉を交わさない演出が、アンデット化した父の悲愴感と覚悟、感動を味わい深いものにしていました。 流石とし…
ええ話や……泣けるで!
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