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想いと覚悟と

 ビュッ!


 風のように門番の拳が俺に迫る。完全に虚をつかれた俺はほとんど回避行動が出来ない。そして……


 ドカッ!


 門番の拳が突き刺さったのは俺の頭……ではなく、背後に狭ったゴブリンの眉間だった!


「ギッ!」


 断末魔の声を上げることさえ出来ず、ゴブリンが倒れ伏す。門番はそれを見ると、踵を返して森の出口へと戻っていく……


(ひょっとして……守ってくれたのか?)


 偶然……? いやしかし…… でもそうなら何故だ? 


(大体何で傷を負ってまで魔物を撃退してるんだ?)


 もし自分を襲ってくる魔物を倒しているだけだとしたら、俺を助けた最後の行動が理解出来ない。が、もし仮に俺や俺達を助ける意思があるなら何故出口を塞ぐんだ?


「ディラン、一体何が!?」

「エレナ!」


 俺は息を弾ませたエレナに全てを話した。


「それってまさか──」


 その時、突然門番が倒れ込んだ! 


「ガ! ガガガッ!」


 今まで一切声を発しなかった門番が苦悶の声を上げる! そして、それと同時に右半身に邪な模様が浮かぶ。


(あれは邪神の……まさかアンデットなのか!?)


 アンデットとはゾンビやスケルトンに代表される不死の生物だ。いや、生物というのは正確じゃない。彼らは食べたり、眠ったり、考えたりといった生物らしい機能を全て失ってる。にも関わらず、彼らは動き、多くの場合、生ある物に危害を加える。目的も意思も失ったその呪われた生は邪神の悪戯だと恐れられているが……


(確か強すぎる想いを持って死ぬと稀にアンデット化すると聞いたことがあるが……)


 未練、恨み、後悔。そうした負の感情に邪神がつけ込み、アンデットが生まれるらしい。勿論滅多にあることじゃないが……


「ガガガッ! ガァァァ!」


 俺達の方へと振り返った門番の目が今までとは違い、真っ赤に光る。よく見ると、その傷口からは血が流れていない。当たり前だ。もう心臓は動いていないんだから。


(くそっ……何で今まで気づかなかったんだ!)


 今までとは違うあの眼光……恐らく理性を飲まれた証だろう。


 ズン、ズン、ズン!


 門番が爪を構えて俺達に近づいてくる。が……


「ガ!? がァァ!」


 突然門番が頭を地面に叩きつけ、動きを止めた。一体何なんだ!?


「ガ……ガガ」


 動きを止めた門番は何故かその場に座り込んだ。その目はついさっきまでの真っ赤なソレではなく、俺達の知る茶色の瞳に戻っている。


(今、エレナを見た瞬間、動きを止めなかったか……?)


 頭を地面に叩きつけたのは正気をとりもどすためだったのかも知れない。ということは……いや、そんなことってあるか?


(エレナはお父さんは死んだって……)


 確かに彼女はそう言った。だが、それは俺の荒唐無稽な閃きと一切矛盾しない。いや、むしろ裏付けてしまうものでさえある。


(だけど……だけど!)


 だとしたらそれはあまりに──


「おとう……さん」


 エレナがボソリと呟く声に門番の耳が僅かに動く。だが、門番はただエレナに視線を向けるだけで何も言わなかった。


「ずっと……私を守って……くれてたの?」


 膝から力が抜け、エレナがその場に跪く。門番はそんな彼女に一瞬手を伸ばしかけたが、すぐに手を引っ込めた。まるで自分にはもう娘に触れる資格がないとでも言うかのように……


「なのに私、おとうさんと戦って……」

「アウッ!」


 門番が首を振る。その意図は分からないが、多分俺達との戦いは門番……いや、エレナのお父さんにとって悪いものではなかっんだ。何故なら多分……


(エレナに外へ出る力をつけさせたかったから……)


 思えば全ておかしかった。大体これだけ実力差がある相手とあれだけ戦ってるのに、俺達は打ち身や擦り傷程度で済んでいるというのが既におかしい。もし、相手に害意があったなら俺達はとっくに死んでいるだろう。


「ご指導、ありがとうございました」


 俺は自らの感謝と自分の考えをエレナに悟らせるためにそう口にした。ちゃんと話せば良いのかも知れないが、少なくとも今は出来ない。だって、そんなことをしたら胸にこみ上げる嗚咽が抑えきれなくなってしまうから。


(……俺がしっかりしないと)


 これからのことを考えたら今、一番辛いのはエレナだ。俺が泣いてる場合じゃない!


「ありがとう、おとうさん」


 エレナは涙を拭いてそう言い、立ち上がる。そう、彼女も分かってるんだ。俺達が次にしなければいけないことが……


アンドリューの講義:

アンデット

 ゾンビやグールなどあるべき命の理からの外れた生を邪神から与えられた存在をアンデットと呼ぶ。その命は所詮まがい物で正気や理性はなく、他の生物を食らうことで飢えや乾きを癒すことしか知らないとされている。


獣人について

 獣人は獣のような大きな耳や尻尾などを持つ種族の総称。普通の人間と比べて力や素早さ、五感が優れていることが多いが、魔力は低め。また、獣人の中には戦闘時に肉体をより戦闘用の形態に変化させる種族もいると言われている。


*ちなみにエレナはハーフなので外見は普通の人間と同じ。

 

アンドリューからのお願い:

 森の中とは言え、まさかこんな場所でアンデッドが生まれるとは……

 門番の正体がエレナ嬢の父君だと気づいたエドワード様がどうされるのか。次話も必見ですな!

 おっと、忘れていました! 次話を見逃さないためにもまだの方はブクマ&ポイントをポチッとすることをお勧めしますぞ。毎回毎回同じことを言って申し訳ないと思うのですが、“王族たる者、大事なことは二度三度為せ”と言いますからな。是非ご一考の程を。

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― 新着の感想 ―
アンデット化ということは、この場所を守護していた門番はつまり…… 確かに強さの差から考えれば、不自然なバトルが多かったですね。 娘を想っての守護、エドワードが来てからの修行ということでしたか。 エレ…
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