失敗
(アレクサンダー視点)
「順調なようですね、エドワード」
「はい、母上」
僕は自分の思いを噛み殺してそう返答した。いや、順調ではある。城中のほとんどの人間が俺のことをエドワードと呼び、敬っている。今や、僕が……いや、僕こそが第一王子エドワードなんだ!
「皆を納得させれば、あの娘もやがて貴方をエドワードだと認めるはず。今はそっとしておきなさい」
「……はい」
そう。城中の人間が俺をエドワードだと認める中、その唯一の例外がシャーロットだ。彼女だけは未だに俺をエドワードと認めてない。
(くそ……それもあの死にぞこないのジジイが生きてるからだ!)
僕が〈光速剣〉で叩き切ってやったあのアンドリューとかいうジジイ。あいつが生きてるからシャーロットも強情になるんだ!
(いっそ殺してしまいたいが……)
だが、母上からはそんなことは命じられていない。命じられていないことをすれば、母上は僕に失望するだろう。それだけは駄目だ。
「可愛い私の子……良くやりましたね」
「ありがとうございます!」
だが、母上からのお褒めの言葉を頂いた瞬間、僕の頭からはアンドリューのことなんて消し飛んだ。心が光で満ち、体中が暖かな何かで包まれる……
(そうだ……母上の言う通りにしていれば良いんだ)
僕は間違ってない。だって、母上が褒めてくれてるんだから。母上が褒めてくれてるなら俺は正しいしんだ!
(そうだ……シャーロットが俺をエドワードだと認め、結婚に合意すれば母上ももっと喜んでくれるはずだ!)
僕がエドワードになるための最後の一ピース。それがシャーロットだ。俺が完璧にエドワードになれば母上はもっと褒めてくれるはずだ!
*
(ディラン〈エドワード〉視点)
ぐつぐつ……
俺はようやく煮えてきた鍋を見て、安堵のため息をついた。どうやらこのままうまく行きそうだな。
(まさか魔道具なしで火をつけるのがこんなに大変だったなんて……)
マジックポーチの中には火を点ける魔道具はある。けど、いつもエレナがやってるみたいにやらなきゃ負けた気がするから、火熾しからやってきみたのだが……これが中々大変だった。
(まさかエレナがあんなに強かったなんてな……)
あれから何度かエレナとの組み手をした後、俺は夕食の準備をしていた。いつもエレナに任せきりじゃ申し訳ないし、ちょっと考える時間も欲しかったんだ。
(クラスレベルを上げるだけじゃなくてスキルの使い方ももっと練習しないとな)
エレナは自身のスキル、〈発勁〉をインパクトの瞬間に発動させることでクールタイムを短縮しているようだ。俺の〈ダブルスラッシュ〉や〈剣の道〉とかで同じことが出来るかどうかは分からないが、とにかくスキルには色んな使い方があるってことだな。
ぐつぐつ……
そろそろエレナを呼ぼうと思った瞬間、頭の中で声がした。
“クラスレベルが上がりました”
ん? クラスレベル!?
(ステータス!)
◆◆◆
ディラン(エドワード) Lv1(レンジャーLv2)new!
力 9
防御 8
魔力 6
精神 7
素早さ 8(+10)
スキル
〈弓の道〉
〈ダブルシュート〉new!
◆◆◆
おおっ! 『レンジャー』のクラスレベルが上がってる。
(しかもスキルも!)
見たところ〈ダブルスラッシュ〉のレンジャー版と言った感じが……一応見てみるか。
◆◆◆
〈ダブルシュート〉
連続で二射を放つシュートスキル。特別な追加効果はないが、クールタイムが短い割に攻撃力が高く、使いやすい。
◆◆◆
説明文もほぼ同じ……ってことは同じようなスキルだと考えて良さそうだな。
(それにしても何でクラスレベルが上がったんだ?)
火を熾して料理を作っただけだけど……ってまさかこれでクラスレベルが上がったのか!?
(料理……いや野外活動をすることが『レンジャー』のクラスレベルを上げる条件なのか?)
『剣士』の場合は剣で戦うことがクラスレベルを上げる条件っぽかったが、『レンジャー』のクラスレベルを上げる条件はどうも違うらしいな。
(……料理以外にも色々試してみるか)
クラスの説明文には別のクラスに派生する可能性があるとも書かれていた。別のクラスに派生する条件はまだ分からないが、『レンジャー』や『剣士』のクラスレベルの上昇って可能性もあるからな。
「あ、やべ!」
そんなことを考えてると焦げた臭いが鍋から……しまった!
ディランからのお願い:
いやだから失敗したとは言ってない! ち、ちょっと焦がしただけさ(汗)
ちなみに料理は基本エレナの見様見真似だ。これでも元王族だしな。今まであまり経験がなかったんだ。けど、クラス獲得のためには今までやったことがないことを積極的にしていかなきゃ行けないのかも……
おっと、忘れるとこだった! 毎度毎度で申し訳ないんだが、ブクマ&ポイントがまだの方は是非ご一考下さい。俺にはよく分からないけど、ポチッとするだけで筆者のテンションが爆上がりするらしいので。




