思い込み
(エライことになったな……)
昼食後は一緒に門番と戦うためにエレナに稽古をつけることになってしまった。巻き込むつもりはなかったのに、がっつり巻き込んでしまっている点にはもう反省しかない。
(どうすれば良かったのか……ってクラスを変えておかないと)
動きを見た後、組み手をする可能性もある。〈剣の道〉が発動したままだと流石にエレナには荷が重いだろうから、クラスを〈レンジャー〉にしておくか。
(ステータス!)
◆◆◆
ディラン(エドワード) Lv1(剣士Lv2)new!
力 9(+5)
防御 8(+5)
魔力 6
精神 7
素早さ 8
スキル
〈剣の道〉
〈ダブルスラッシュ〉new!
◆◆◆
あれ? スキルが増えてる?
(剣士のクラスレベルも上がってる……もしかしてそれでスキルを覚えたのか?)
門番との戦いでクラスレベルが上がったのか? 素振りをしてる時にはクラスレベルが上がらなかったのに……
(門番を倒せてないから俺自身のレベルは上がってない。けど、クラスレベルが上がるならステータスを強化できるな)
実は門番と戦った後、レベルアップしてステータスを強化出来ないかと考えていたんだ。でも、この森には魔物がいないからレベルアップしようがないと諦めた。けど、これなら……
(〈ダブルスラッシュ〉って騎士団の副団長達がよく持ってるスキルだよな)
騎士を目指す者にとって〈ダブルスラッシュ〉はいわゆるアタリだ。レアとは言えないが、使いやすいスキルでこれを持っていると将来有望とまで言われるスキルだ。
(一応説明も見ておくか)
アンドリューがくれた初代国王の手記にも”特に新スキルは必ず詳細を確認すべし“書いてあったしな。
◆◆◆
〈ダブルスラッシュ〉
連続で二連撃を放つソードスキル。特別な追加効果はないが、クールタイムが短い割に攻撃力が高く、使いやすい。
◆◆◆
おおっ……そうなのか。
(クールタイムってのはスキルを再使用するまでに必要な時間のことだったな)
実はスキルは連発出来ない。一回使ったらしばらく待たないと発動出来ないという特徴があるのだ。スキルは天からの授かりもの。あんまり頼り切りになるなってことかもな。
(なるほど。クールタイムの短さと威力の高さが〈ダブルスラッシュ〉の強みなのか)
知らなかった。説明を見ておいて良かったよ。早速試してみたいな。
「ディラン、まだ? 私はもう準備出来てるよ!」
エレナの声だ! おっと、急がないと!
*
「いくよ!」
「ああ」
と返事はしたが、正直俺は向かいあったエレナに怪我をさせないためにはどうしたら良いかばかりを考えていた。
(運動神経は良さそうだけど、体格がな……)
エレナは俺より頭一つ分背が低く、体も細い。拳を構えているところを見ると、素手で戦うつもり何だろうが……パンチを当てたら逆にバランスを崩して転んじゃうんじゃないか?
(素手じゃなくて、剣……いやダガーとかなら急所狙いという作戦も出来るんだろうけど)
動きは速いし……まあ、スタミナはなさそうだけど。それにしても……
ビュッ!
そんなことをダラダラと考えていた俺に風を裂きながらエレナの拳が飛んで来る!
(なっ!)
ギリギリかわすが、その時には既に次の拳が飛んでくる! おいおい、何てスピードだ!
(いや、スピードだけじゃないッ!)
ドスッ……
たまらずガードした腕に強烈な衝撃を感じ、たまらず後退する。何だ、この重さは!? 女の子の繰り出す拳じゃないぞ!
「そう言えば言い忘れてたけど、私獣人と人間のハーフなの」
獣人と人間のハーフ……道理で身体能力が高い訳だ。しかし、それにしたってこの拳の重さは……
「で、私のスキルは〈発勁〉って言って自分の身体能力を高めることが出来るの。落ちてきた場所から家までディランを運べたのはこのスキルのおかげ」
今まで深く考えてなかったが、確かにエレナが見た目通りの力しか持たない女の子なら俺を運んだり、起き上がらせたりなんて出来るはずがないな。
「腕を強化すればさっきみたいな攻撃が出来るし、足を強化すれば……」
フッ……
エレナの姿が消える。いや、それは錯覚だ。気がつけばエレナとの距離は縮まっていて……
ブンッ!
エレナの回し蹴り! まるで鋭い剣閃のようなそれから逃れるためには宙に逃げるしかなかった。
(くそっ……ヤバい)
これが下策なのは分かってる。だって、これがエレナの狙いなんだから。迫りくるエレナの右ストレートを前に俺は自分の愚かな思い込みを深く反省するのだった……
ディランからのお願い:
いや、負けたとは言ってない。言ってないから!
しかし、エレナがあんなに強いとは。人は見かけによらないもんだなぁ……
ちなみに次話では俺がまたもやパワーアップ! 見逃し厳禁の展開が続くからブクマ&ポイントがまだの方は是非よろしくお願いします!




