何故……?
フッ……
攻撃に備えて構える俺の前から門番は突如姿を消した!
(後ろか!)
直感的に振り向いた先にはやはり奴が……が、俺は辛うじて振り向いただけ。攻撃に備える体勢は整っていない!
「ぐっ!」
今度は爪じゃなく右ストレート! まともに防御するしかなかった俺はその圧倒的なパワーを前にその場で踏みとどまることさえ出来ず、吹き飛ばされてしまう!
ドサッ! 「ガハッ!」
うめき声を上げたのも一瞬、俺は状況を把握する前に起き上がり、門番の姿を探した。痛みも体へダメージも今は後。間違いなく追撃が来──
(あれ……来ない?)
どれほど待っても追撃が来ない。というか、門番は既に最初の位置に戻って佇んでいて、俺の方を見てさえいない。
(もしかして、吹き飛ばされて俺が出口から離れたからか?)
出口に近づいた者を攻撃するが、離れればそれ以上は追わない……そう言うことなのか?
(よくわからないが、助かったな)
あまりに生物らしくない思考だ。まるで奴隷かゴーレムのような……門番は一体何者なんだ?
(……まあ、とりあえずエレナのところへ戻るか)
あまり遅くなって心配をかける訳にもいかないしな。
*
「ど、どうしたの! 一体!」
そんなこんなで戻った俺はエレナをめちゃくちゃ驚かせてしまった。門番との戦いや奴の正体に気が取られていたせいで気がついていなかったのだが、今の俺はあちこちが土で汚れた酷い姿になっていたのだ。
「とりあえず着替えて──って怪我まで!」
服を脱がそうとするエレナが俺の体に打ち身を見つけてさらに大きな声を上げる。しまったな、心配させたくなかったんだが……
「ついこの前まで寝込んでいたって言うのに……何でこんな無茶ばかり……」
あ、ヤバい。泣かした!?
「わ、悪い。わざとじゃないんだ。全部話すから……」
俺はエレナを宥めながら、ちょっと体を動かすつもりだけだったことや門番の顔だけ見に行くつもりだったのが、襲われてしまい、何とか逃げ出したことなどを話した。すると……
「ディラン……どうしてそんな無茶ばかりするの!? 死んじゃうかもしれなかったんだよ!」
うわっ……今度は怒らせてしまった!
「死んじゃったらどうするの!? あなたには家族や両親がいるんでしょ!」
「いや、母さんはもう死んでるし、父さんは……」
いや、もう父親じゃないんだっけか?
「えっ……ごめんなさい」
「いや、構わないよ。大分昔のことだし」
エレナはしんと静まり返った。俺の心の傷に無闇に触れてしまったと思い込んでいるのだろう。たった数日の付き合いだが、エレナが優しい性格であることは分かってる。
(気にすることはないって言っても無駄か)
もうこうなったら事情を話すしかないか。じゃないと、エレナを納得させられない気がする。彼女は頭も良いし、上手くやってくれるよな。
「エレナ、実は……」
出来るだけ冷静かつ客観的に話したつもりだった。が、話を聞いたエレナは再び怒りに燃えてしまっていた。
「ひ……酷い! スキルがないからって追放するなんて!」
「いや、まあ俺も城は出ないと行けなかったし……」
わわっ! ちょっとエレナさん!?
「それにそのアレクサンダーって人、最低ですね! 自分がディランになりきるために殺そうとするなんて!」
「あ、ああ。まあ、奴とは決着をつけなきゃならない。けど、アンドリューの無事を確認するのが先かな」
アレクサンダーのしたことは許せないし、許すつもりもない。が、やはりアンドリューの無事を確認するのが最優先だ。
「アンドリューさん……無事かな。それにシャーロットさんもディランと結婚出来ると頃だったのに引き離されて可哀想。しかも、他の人と結婚しなきゃいけなくなるなんて」
「ああ。そんなことは絶対認められない」
あれだけ一途に想ってくれているシャーロットを失うわけにはいけないし、そんなことは考えたくもない。だから……
「だから、ちょっと焦っちゃってさ。別に命を粗末にするつもりはないんだ。死ねない理由もあるしな」
ここまで話せば、俺が死ぬ気がないことは理解してくれただろう。そして、多少の無茶は仕方ないということも。
(優しいエレナなら“邪魔しないように心配しすぎちゃ駄目だ”と思ってくれるはずだ)
何か誤魔化してるような感じもするが、別にエレナを騙したい訳じゃない。ただ、ここで静かに暮らしている彼女を巻き込みたくないだけだ。
「──分かったよ、ディラン」
思った通りだ。よし、これで……
「私もディランを手伝う! ディランがエドワードに戻れるように協力するよ!」
何で!?
エレナからのお願い:
アレクサンダーって人、最低! 絶対許せない! ディランとシャーロットさんを引き裂くなんて絶対に許さないんだから!
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