偶像
アイドル。意外やも意外。身を粉にしてせっせこせっせこ働けば、そこに君臨するとでも言いたげな目。ありったけの形容詞をぶつけてみても、返ってくるのはどこか乾いた音だけ。残響は山向こうの寺まで飛んでいけただろうか。何だか虚しい? 虚しいはずがあるまいて。その身に宿らせるは、赤く染まった紅葉。その身に堕落させるは、月の欠落。踏ん切りのつかない策はそのままにして、葡萄畑に迎えに行こう。しめしめ。泥のアーチ。泥のようなアーチ。誰も寝てはならぬ。ウワバミが首を垂れるまでは。
古びた電話が鳴り始めた。リリリリリン。リリリリリン。リリ…。事切れるのはいつも突然だ。そうこうしているうちにまたしても鳴り始めた。ジリジリジリ。ジリジリジリ。ジリジリジリ…。催促。みかんとダンボールからの催促。利息は愛で支払うから。今度は待ちくたびれたかのような終局。疑惑と困惑と感嘆と賛美をぐちゃぐちゃに混ぜっ返したような、そんなため息が今にも聞こえてきそうだ。
私が偶像に電話するように偶像もどこかへ電話しているに違いない。お待ちかねの代物は無事届きましたでしょうや。……。長い長い沈黙。意味不明な返答。はいともいいえとも付かない時間泥棒の極地。それでも彼ら彼女らは納得したかのように頷く。神を堕ろすのにはまだまだ時間が掛かりそうだ。雑音まみれの通信。膨大な発信記録。受信が確認できたのは? 神のみぞ知る。ウズベキスタンの僻地の雨戸もガタガタと喚いている。象牙がなんだ。ウメの花がなんだ。もはや何だって良い。何だって構いやしないのだ。アイドルの化け物じみた美しさに一度でも惑わされたのならば!