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俺だけのスキル【ガチャ】が世界を救う  作者: 渡琉兎


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第57話:退院

 それからの竜胆は、経過観察も必要だと環奈から言われたこともあり、三日間の入院生活を過ごした。

 その間、鏡花と隣の病室を割り当てられており、何かと鏡花が入り浸ってきたのだが、久しぶりの休暇だと割り切り楽しむことにした。


「先生もさー、気を利かせてお兄ちゃんと同室にしてくれたらいいのにねー」

「いや、気を利かせて隣の病室にしてくれたんだと思うぞ?」


 兄妹とはいえ、男と女だ。

 検査で衣服を脱ぐこともあるだろうし、実際に竜胆は上半身裸で検査を受けたことがある。

 女性であり思春期だろう鏡花からすれば恥ずかしいだろうし、それを目撃することになれば竜胆も恥ずかしさで病室の外に行くことになるはずだ。

 そんな面倒を避けるため別の病室を用意してくれたはずなのだが、何故か鏡花は気づいていない。


(女の子なんだから、鏡花の方が気づいてほしいんだけどなぁ)


 少しだけ、鏡花の将来が心配になる竜胆だった。


 ■□■□


 そして、三日間の入院生活が終わりを迎えた。


「うん、問題なさそうでよかったわ」


 環奈からのお墨付きも貰い、竜胆は拳を何度も握り、開いて感覚を確かめる。


「……絢瀬先生、本当にありがとうございました」

「どういたしまして。……と言いたいところだけど、実際には外傷はなく、内傷も見当たらなかったから、ただ見守ることしかできなかったけどね」


 苦笑しながら環奈がそう口にするも、竜胆は首を横に振りながら感謝を口にする。


「そんなことないです。先生がいなかったら、今頃こいつは不安でいっぱいだったでしょうから」


 竜胆が『こいつ』と言ったのは、退院する竜胆を恋しがり、腕にしがみついたままの鏡花だった。


「ぶー、もっと入院してくれてていいんだよー?」

「無駄に病室を占領するわけにはいけないだろうが」

「だってー!」

「はいはい、またちゃんとお見舞いには来るから、それで我慢してくれよな?」


 掴まれている腕とは逆の手で頭を撫でながら竜胆がそう伝えると、鏡花は渋々と言った感じで腕を解放した。


「……本当に、無事でお見舞いに来てよね?」


『無事に』という言葉が妙に心に響き、竜胆はハッとしたものの、鏡花へ力強く頷いた。


「……もちろんだ。もう鏡花のことを心配させないさ」

「約束だからね! 絶対だよ!」

「あぁっ! …………いや、絶対はさすがに無理かも?」

「えぇ~! ちょっと、お兄ちゃ~ん!」


 プレイヤーをやっている時点でケガと無縁の生活には戻れない。

 鏡花の手前、強がってみてもよかったのだが、確約できないことを約束はできないかと、言葉を濁してしまう。


「うふふ、竜胆君は律儀なのね」

「いや、本当のことでしょう。でもまあ、ケガをしたら先生のお世話になりますよ」

「それは遠慮してほしいわね。鏡花ちゃんのためにも、ケガなくお見舞いに来てちょうだいね」

「分かりました」


 そのまま病室で環奈とは別れ、竜胆と鏡花は病院の入口へ向かう。


「そういえば、剣は警備に預けているんだっけか?」

「あっ! それなら矢田さんが預かっているみたいだよ?」

「恭介が?」


 竜胆の疑問に鏡花が答えると、入口を抜けた門の前に見覚えのある人物が二人、待っていてくれた。


「恭介! それに……なんで彩音まで?」


 恭介とはスマホで何度かやり取りをしていたので分かるが、彩音までいたことに竜胆は驚いていた。


「あっ! 酷いなぁ、竜胆さん!」

「いや、だってなぁ」

「彩音さんは私たちを協会まで連れてくるよう言われているみたいなんだ」


 恭介とのやり取りの中で、竜胆がプレイヤー協会から呼び出されていることを知った。

 もちろん、退院してからで問題はないことも分かっていたが、まさかAランクプレイヤーの彩音が使いに出されるとは思いもしなかった。


「退院早々で申し訳ないんだけど、お願いできるかな?」

「もちろんだ。恭介も一緒に行ってくれるのか?」

「竜胆君は意識を失っていた時間もあるからね、その部分を私が補足できればと思っているよ」

「助かる」


 そこまでやり取りをしたあと、竜胆は病院の門の外へ踏み出した。


「いってらっしゃい、お兄ちゃん」


 その背中に鏡花から声が掛かり、竜胆は笑顔で振り返る。


「いってくるよ、鏡花」


 そうして竜胆は、恭介と彩音と共に協会ビルへ向かった。

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