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俺だけのスキル【ガチャ】が世界を救う  作者: 渡琉兎


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第51話:エルディアスコング④

 自分は弱い、恭介の行動を見て竜胆は心底そう思った。

 プレイヤーに覚醒し、ガチャという規格外のスキルを手に入れ、自分でも自覚できるほど一気に強くなっていったことで天狗になっていたのかもしれない。


(俺がすぐに引き返す選択を取っていれば、恭介が危険な状態になることはなかった!)


 歯噛みしながらそう考えても、もう遅い。

 今は恭介が繋いでくれた細い糸を手繰り寄せ、勝利を手にすることだけを考えなければならない。


(エルディアスコングの悲鳴は尋常じゃない。二本の毒牙の短剣が間違いなく内側からダメージを与えているんだ!)


 竜胆が単独でエルディアスコングを倒すには、今しかない。

 恭介の身を挺した努力を無駄にするわけにはいかないと、竜胆は一気に前へ出た。

 作戦があるわけではない。ただ、前に出る必要があると本能がそう言っている。


(時間を掛けたらダメだ! 回復の時間を与えるな、一気に片を付けるんだ!)


 出会ってからずっと逆立っていた強靭な体毛が、目に見えて垂れてきている。


「うおおおおおおおおっ!!」


 鋭く振り抜かれた疾風剣が鈍重になったエルディアスコングを捉え、体毛ごと左腕を切り裂いた。


『ブフォアアアアッ!?』

「やれる!」


 目を見開き、踏み込む足に力を込める。

 毒だけではなく竜胆にまで傷を負わされたエルディアスコングは、何が起きているのか分からず困惑顔を浮かべている。

 一歩踏み込み、渾身の袈裟斬りを放つ。


 ――ザシュッ!


『ブギュアアアアァァアアァァッ!?』


 エルディアスコングの肩から胸にかけて深い傷が刻まれ、耳をつんざく悲鳴がこだまする。

 さらに竜胆は前へ踏み込み、流れるような連撃を繰り出していく。

 横薙ぎ、切り上げ、逆袈裟からの回転斬り。

 小刻みに呼吸をしながらリズムを刻み、エルディアスコングの体に無数の傷を刻みつけていく。


『ウボアッ! ブボボ、ブボバアアアアッ!!』


 毒で弱っているエルディアスコングだが、やられてばかりではなかった。

 鈍重になっているとはいえ、瞬間の速度が脅威となることもある。

 振り抜かれた右腕が竜胆の顔に迫ってくるが、間一髪でしゃがみ込んで回避する。

 数本の毛先が突風に引っ張られて宙を舞う。

 それでも構うことなく再び前へ出ると、すれ違いざまにエルディアスコングの脇腹を深く切り裂いた。


『グボボボババッ!?』


 ドバっとドロドロの血が脇腹の傷口から溢れ出し、地面を赤く染め上げていく。

 これが普通のモンスターであれば、これで勝利を手にしていただろう。


『…………ウボボババアアアアァァアアァァッ!!』


 しかし、エルディアスコングは普通のモンスターではない。単身でBランク相当の実力を持つモンスターなのだ。

 血をまき散らしながら、それでも目の前の脅威を排除しようと体毛を逆立てながら鋭い牙をむき出しにして襲い掛かってきた。


 ――ドスッ。


「死に際が一番危険だって、知ってんだよ」


 右手に持ち直した疾風剣をエルディアスコングの口に突っ込んで噛みつきを防ぎ、左手で取り出した三本目の毒牙の短剣を右の眼球に突き刺した。


『…………ボベウゴギェアベベバボォォボゴゴゲガガァァアアァァッ!?』


 悲鳴にならない悲鳴を響かせながら、エルディアスコングが両手で顔をかきむしり始めた。

 竜胆が突き刺した毒牙の短剣は下から上にめがけて、眼球を貫いている。

 剣身はエルディアスコングの脳にまで至っており、毒が脳を直接侵していく。

 平衡感覚が徐々に失われていき、足をよろめかせてそのまま血に染まった地面に倒れ込み、ゴロゴロと転が出す。


『アババ……バ…………』


 そして、力ない呻き声を漏らし始めると、最後には息の根を止めた。


「…………勝った、のか?」


 突然の静寂にも警戒を解くことができず、呼吸を整えながら地面に転がっているエルディアスコングを見つめる。


「……はっ! 恭介!」


 だが、そうしていられたのも一瞬で、竜胆は踵を返すと恭介の元へ駆け出した。


「恭介! 大丈夫か、おい!」


 恭介の体を慎重に起こしながら声を掛ける。


「……ぅ」

「よし、生きてるな! マジックバッグからポーションを取り出すんだ!」


 マジックバッグは使用者と許可を得ている者しか取り出せない仕様になっている。

 竜胆が勝手にポーションを取り出すことができず、恭介に頼むことしかできない。


「……竜胆君、頼む」

「俺は取り出せないだろう!」

「……許可は……出し、てる」


 恭介は竜胆と行動を共にすることが増えるだろうと、一緒に新人プレイヤー用の扉に入ることが決まってからすぐに竜胆でもアイテムが取り出せるよう、仕様を変更していた。

 その事実を知らなかった竜胆だが、分かってからの行動は早かった。

 マジックバッグに手を突っ込み、中級ポーションを取り出すイメージを作り出す。

 プレイヤーに憧れて知識を貯め込んでいた時に、マジックバッグの使い方についても知ることができた。


「飲めるか? いや、まずはぶっかけるぞ!」


 瓶のふたを開けると、そのままポーションをぶっかけた。

 頭から足先までポーションをぶっかけたことで、目に見える傷は塞がっていく。


「……ふぅ」

「こっちの中級ポーションは飲め、いいな!」

「……ありがとう、竜胆君」


 ぶっかけただけでも多少の体力は回復する。

 中級ポーションを受け取った恭介は、自らの手で口へと運び飲み込んでいく。


「……ぷはっ! あぁ、生きてるんだね、私は」

「俺も生きてるよ」

「助かったよ、竜胆君」

「それはこっちのセリフだろうが」


 恭介がいなければ竜胆は間違いなく、エルディアスコングに殺されていただろう。

 天狗になっていた自分を恭介が身を挺して助けてくれたのだから、竜胆がそう口にするのも当然だった。


【モンスター討伐によりスキル【ガチャ】が発動します】


 そして、エルディアスコングを倒したことでスキル【ガチャ】が発動した。

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