第173話:エピローグ
――数日後、東部地区プレイヤー協会の大部屋にて、記者会見が行われることになった。
記者会見の内容は『Sランクプレイヤーの誕生!』である。
しかし、これらは東部地区プレイヤー協会主導であり、プレイヤー協会全体が主導しているものではない。
それでもなお、地上に進出してきたドラゴンを討伐したプレイヤーだということは周知の事実であり、多くの記者たちが今回の記者会見には押し寄せていた。
「……すー……はー」
「緊張しているのか、竜胆プレイヤー?」
舞台の袖で深呼吸をしていた竜胆へ、拳児が声を掛けた。
「それはまあ、そうですね。こんな大勢の前に姿を見せるなんて、なかったことですから」
正直な気持ちを口にした竜胆へ、拳児は力強くその肩を叩く。
「俺もついているし、東部地区プレイヤー協会の全員がサポートしてやる。だから竜胆プレイヤーは、どっしり構えていてくれて構わないさ」
「……はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、いくぞ」
竜胆の返事を聞いた拳児はそう伝えると、ニヤリと笑ってから舞台上へ歩いていく。
「えー、まずはお集まりいただいた皆様、誠にありがとうございます。本日は東部地区プレイヤー協会にて誕生したSランクプレイヤーの紹介をさせていただこうと思っております」
「そのSランクプレイヤーというのは、先日の地上へ進出したドラゴンを討伐したプレイヤーということでよろしいのでしょうか!」
拳児が挨拶をすると同時に、記者の一人が声を響かせた。
「質疑応答は後程と思っていましたが……えぇ、仰る通りです」
この場にいる誰もが思っている疑問だっただろうと判断した拳児は、記者の質問にはっきりと答えてみせた。
すると会場にはざわめきが起こり始める。
「俺の話を続けるのにも意味はないだろう。早速だが、紹介しようと思う。入ってくれ」
ざわめきが静寂へと変わり、拳児が視線を向けた舞台袖に記者たちの視線が集まる。
そこへ姿を見せた竜胆を見て、記者たちのカメラがパシャパシャと音を響かせた。
舞台上に姿を見せた竜胆は、拳児の隣まで移動すると、記者たちを正面に見てから一礼する。
「彼が今回のSランクプレイヤーであり、スタンピードの際に地上へ進出してきたドラゴンを討伐したプレイヤー、天地竜胆プレイヤーだ」
「天地竜胆です」
挨拶と同時に再びシャッターが切られ、竜胆は緊張していく。
「ドラゴンの討伐以降、彼について調べている動きが多数確認されました。故に今回はこのように大々的に公表したとともに、我々東部地区プレイヤー協会は彼を全力でサポートし、守っていく所存です」
そこへ拳児の力強い宣言がマイクを通して会場全体に響き渡り、竜胆は自然と肩の力が抜けていった。
「天地プレイヤーは今後、他の地区へ向かうこともあるんでしょうか!」
「要請があればそういうこともあるだろう。しかし、基本的には東部地区での活動となる」
「それは東部地区がSランクプレイヤーを独占するということでしょうか! 天地プレイヤーの意思はどうなるのでしょう!」
「要請があればとお伝えしたと思います。故に、東部地区で独占するつもりはありません。基本的な活動場所が東部地区なのは、こちらのサポートを十全に行うため、そのようにお伝えした次第です」
「それでは、天地プレイヤーはどのようにお考えなのでしょうか! 東部地区で活動することを強要されているわけではないのですか!」
今はまだ質疑応答の時間ではないが、記者たちの質問は止まらない。
その質問は竜胆にも向かい、彼は回答を余儀なくされた。
だが、今回の質問は竜胆にとって答えやすいものであり、彼は迷いなく口を開く。
「東部地区は俺の故郷です。ここで活動することは俺が決めたことであり、強要されてなどおりません」
「他の地区から要請があれば向かわれると支部長が仰っていましたが、そちらも強要されているわけではないのですか!」
「俺にできることがあるなら、俺の意思で向かいたいと思っています」
「危険を強いられることもあるかと思いますが、その点についてはどうお考えなのでしょうか!」
「プレイヤーとして覚醒した日、東部地区ではスタンピードが起きていました」
最後の質問を受けて、竜胆は自らが覚醒した日のことを語りだした。
「俺は最初、プレイヤーに憧れるただの一般人でした。ですが、プレイヤーに覚醒して、俺の手の届く範囲ではありますけど、モンスターに襲われていた人を助けることができました」
「それは自分が他の人より優れていると言いたいのでしょうか!」
「……そうであればよかったんですが、そうじゃなかった。だから、手の届く範囲でしか助けることができなかったんです」
質問をした記者は、竜胆の答えを聞いて黙り込む。
Sランクプレイヤーに認定されたプレイヤーは傲慢だと決めつけての質問だっただけに、謙虚にそうじゃないと言われてしまい、何も言えなくなってしまったのだ。
「だからこそ、要請があれば他の地区にだって足を運びたいんです。俺にできることがあるなら、その場所に向かって、俺の手の届く範囲で誰かを助けたいんです」
そう口にした竜胆の表情は真剣そのもので、彼の意思が言葉に乗ったのか記者たちも固唾をのんで耳を傾けていた。
「それぞれができることをする、それでいいと思うんです。俺にだってできないことはある。むしろ、できないことの方が多いと思います。だからこそ、東部地区プレイヤー協会の助けを借りることを決めたんですから」
質問の答えとしてそう締めくくった竜胆は、最後に再び一礼して、視線を拳児へ向けた。
「予定が入れ替わってしまったため、質疑応答の時間は以上とする。下がっていいぞ、竜胆プレイヤー」
拳児がそう告げると、質問をし足りない記者たちから声が上がった。
しかし、竜胆は背筋を伸ばし、堂々と舞台上から袖へと歩いていく。
それはこの場に残っている時間よりも、扉の攻略に時間を掛けたいという思いからだった。
(俺はまだ弱い。宣言した通り、俺の手の届く場所だけでも守り抜けるよう、もっと強くならないといけないんだ!)
竜胆の視線はすでに未来へ向いている。
その未来には何があるのか、それを知っているのは竜胆だけだ。
そして、天地竜胆という名前が世界に轟くのも、遠い未来ではないだろう。
これからも竜胆の活動は続いていく。
【皆様へのお願い】
「面白そう」
「続きが気になる」
「更新応援しています」
少しでもそう思っていただけましたら、ブックマーク登録や、下にある「☆☆☆☆☆」にて評価していただけると大変励みになります!
「★★★★★」の星五つだと、さらに励みになります!
評価してもらえることで、モチベが最高に上がるので、ぜひともよろしくお願いいたします!!




