第162話：上級魔力剣術
竜胆の体からは黄と黒の光が放たれると、一つになって彼の体を包み込んでいく。
「何がなんだか分からねぇが、頼むぞ！」
「足止めは任せてくれ！」
国親と恭介が声を張り上げると、竜胆は融合で新たに獲得したスキルの力を実感していく。
「……これは」
そして、力強く拳を握りしめると、凛々しい表情で顔を上げた。
「一分！ それだけ時間を稼いでくれ！」
「「分かった！」」
竜胆の言葉を受けて、恭介と国親は即座に返事をした。
この一分で全てが決まると、二人はなんとなく分かっていた。
それは長年の経験から、戦いが終盤戦に差し掛かってきたことを悟っていたからだ。
「はあっ！」
「轟雷！」
『ガルアアアアッ！』
恭介も国親も、持てる全ての力を出してドラゴンの足止めを行っている。
一方でドラゴンも竜胆が何かをしていることに気づき、そちらめがけてゆっくりとだが、足を進めている。
恭介と国親からすると、たった一分が、とても長く感じられたことだろう。
しかし、その一分を絶対に死守してやるという気迫が勝り、ドラゴンは思うように前進できずにいた。
そして――一分が経過した。
「スキル――【上級魔力剣術】！」
上級魔法剣と悪食を融合して獲得した新たなスキル、上級魔力剣術。
魔法剣との違いはなんなのかと、スキル名だけを見れば思う者も多いだろう。
しかし、スキル【上級魔力剣術】は今の竜胆にとっては必要なスキル効果を持っており、予想していた通りのものだった。
――ドンッ！
スキルを発動させた竜胆の体から、金色の魔力が放出される。
上級魔力剣術のスキル効果は――魔力を使用して全てのステータスを大幅に上昇させる、というものだ。
それも、悪食の特性が反映されており、周囲に漂う魔力を吸収することができる効果を持っていた。
故に、魔力が底をつきかけてきた竜胆の魔力は完全回復しており、さらに使用するたびに周囲の魔力を吸収していき、尽きることがなくなっている。
しかし、本来であれば魔力を使用するたびに回復するほどの魔力が漂っていることはない。
この場の状況でいえば、様々な魔法が使われた後であり、膨大な魔力が漂っていたからこそ、今の竜胆があるのだ。
「はああああああああっ!!」
一気に加速した竜胆は、速度に乗せた一撃をドラゴンへと叩き込む。
つぎはぎ部分は鱗に比べてもろくはあるが、竜胆の一撃はドラゴンの鱗ごと竜尾を両断してしまう。
『ガグガアアアアッ!?』
「すごい！」
「マジかよ！」
あまりの痛みに悲鳴を上げたドラゴン。
そして、鱗ごと両断した竜胆の一撃に驚きの声を上げる恭介と国親。
それだけ竜胆の一撃は驚異的なものであり、上昇したステータスのままさらなる追撃を仕掛けていく。
竜胆を脅威だと認めたドラゴンの両眼は、完全に彼だけを見据えている。
しかし、この場にいるのは竜胆だけではない。
「はあっ！」
「どらあっ！」
竜胆が付けた傷口めがけて、恭介と国親も攻撃を仕掛けていく。
大きなダメージはならないだろうが、痛みがないわけでもない。
ドラゴンにとっては煩わしいことこの上ないだろう。
意識が竜胆だけではなく、わずかにだが恭介や国親にも向いてしまう。
その隙をつき、竜胆がさらなる攻撃を仕掛けていく。
『ギギギギ、ギルガガアアアアァァアアァァッ!!』
ドラゴン苛立ちから、その巨体を激しく乱暴に振り回し、取りついていた竜胆たちを振り払おうとした。
「これで、終わりだああああああああっ!!」
だが、それがドラゴンにとっての大きな隙になっており、竜胆はそれを見逃さなかった。
大きな翼を動かして空へ逃げようとしたドラゴン。
「轟雷！」
そこへ撃ち落された轟雷によって、空への逃亡が阻止される。
ならばと四肢を動かしてその場からの移動を図るが――。
「させないよ！」
恭介がつぎはぎ部分に剣を突き立て、そのまま地面を食い込ませた。
ほんの一瞬だが、ドラゴンの動きが止まる。
『ガルガアアアアアアアアッ!!』
――ザンッ！
大咆哮を上げたドラゴンだったが、それが最後の声になった。
振り払おうとしたドラゴンの振り回しだが、竜胆は離れることなく、間近で全ての攻撃を回避すると、鋭く振り抜かれたデュランダルの一撃が首を落とした。
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