第160話:相殺と絶望と
――ドゴオオオオオオオオォォォン!
必殺と必殺のエネルギーがぶつかり合い、その中心地では大爆発が巻き起こった。
「ぐおおおおっ!?」
「り、竜胆くううううん!!」
間近にいた恭介と国親はあまりの突風に吹き飛ばされてしまう。
そして、中心地にいただろう竜胆がどうなってしまったのか、二人は気が気でならなかった。
吹き飛ばされた後、二人は大爆発の中心地へ顔を向けたが、そこにはもうもうと黒煙が立ち込めており、その先がどうなっているのか全く分からない。
しかし、ブレスを正面から、それもデュランダルを持っているとはいえ生身で受けているのだから、生きている可能性の方がはるかに低いだろう。
それは恭介も国親も分かっており、絶望の表情で黒煙を眺めていることしかできなかった。だが――
『くくくく、がははははっ! なんとも呆気ない最後よ!』
黒煙の奥からドラゴンの呵々大笑が聞こえてくると、二人はハッとして武器を握る手に力を込める。
なんとか戦意を保っているが、それもいつまでもつか分からない。
絶望のまま戦うことになるのかと、二人は口には出さずとも、お互いにそう思っていることは感じ取っていた。
「……Sランクの増援は来ないのかよ!」
「……他のモンスターに気を取られているのかもね。でも、ここの異常は間違いなく伝わっているはずだよ」
『なんだ? いまさらになって仲間を頼るのか? だが無駄だ! 先ほどの奴も死んだ! 群れに向かっていった奴らも蹂躙されるだろう! そして貴様らはこの場で、我自らの手で殺してや――』
「上級魔法剣、グラビティブレイク!」
そこへドラゴンの言葉を遮るようにして響いてきたのは、死んだと思っていた竜胆の声だった。
『ぐおっ!?』
「竜胆君!」
「てめぇ、生きていやがったか!」
竜胆の一撃がドラゴンの首を捉えた途端、その身に超重力が襲い掛かる。
ドラゴンからは悲鳴にも似た声が発せられるが、気にすることなく竜胆が声を張り上げる。
「一気に行くぞ!」
「分かった!」
「面白くなってきたぜ!」
竜胆が生きていた。それも、ドラゴンに強烈なデバフを与えての生存だ。
恭介と国親の声にも力がこもり、動きも軽やかになっている。
しかし、これで勝負が決まったわけではない。
『このっ!? ふざけた真似を、しおってええええっ!!』
超重力で体が倍以上に重くなっていたドラゴンだが、強靭な力だけでその身を動かし、長大は竜尾を振り回す。
大きく跳躍して竜胆が回避すると、竜尾が通り過ぎたあとから恭介が突っ込んできた。
「はああああっ!」
狙う先はつぎはぎの部分。
すでにスキル【戦意高揚】を発動させているが、恭介の冷静さは残ったままだ。
これが恭介が選んだ選択、スキルの強化だった。
戦意高揚状態でも冷静さを失わず、さらなる能力上昇を手にすることができる。
『ぐがああああっ!?』
恭介の繰り出した一撃は、巧みな剣術によってつぎはぎ部分に一切の狂いなく滑り込んだ。
完全なる悲鳴を上げたドラゴンだったが、直後には国親の渾身の一撃が放たれる。
「轟雷――ヴォルテニクス!」
空から雷を落とした轟雷だが、それが国親の持つヴォルテニクスの穂先に集約された。
「どらああああああああっ!!」
高く飛び上がった国親は、その視線を竜胆へ向ける。
「竜胆! 俺に重力を浴びせやがれ!」
「――! グラビティ!」
国親の指示を受けて、竜胆は即座に意図を理解した。
グラビティを国親に付与すると、超重力を受けて彼の体が一気に落下していく。
「貫けええええええええっ!!」
歯を食いしばりながら、国親はヴォルテニクスをドラゴンの背中へ突き立てた。
「雷鳴爆発!」
『ぐげげががごげがごぼがああああっ!?』
体を貫かれ、さらには肉体の内側から雷撃を浴びせられたことで、ドラゴンは悲鳴にならない声を上げている。
「このまま一気に――」
「危ない! 恭介!」
攻撃は間違いなく効いている。そう判断した恭介が畳みかけようと一歩前に出た直後、竜胆からそう声が飛んだ。
「え?」
『ガルアアアアアアアアッ!!』
ここにきて、モンスターの本能がドラゴンから飛び出した。
瀕死の重傷を負ったドラゴンは、本能に従い一番攻撃しやすい位置にいた相手へ自然と体が動いてしまう。
ドラゴンの顔を近くにいたのは、恭介だった。
大きく開かれた口が恭介へと迫る。
恭介は一歩踏み出していたことで、後退のタイミングを逸してしまった。
「恭介ええええっ!!」
――どんっ!
「くに、ちか?」
――ぐちゃ!
国親が恭介の体を押しのけ、そこへドラゴンの口が届いてしまった。
鈍い音を響かせながら、国親の体の左側を食いちぎった。
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