第158話:鏡花の戦い
竜胆たちと別れた鏡花たちは、地上に出てきて暴れていたモンスターが集まり、こちらへ迫ってきている場所を目指している。
足止めではなく、殲滅するためだ。
他のプレイヤーたちが数を減らせてくれていることを願いながら足を進めていたのだが、モンスターの群れを目の当たりにした鏡花たちは、そんな淡い願いが崩れ去る感覚を覚えてしまった。
「……嘘、でしょ?」
そう呟いたのは、鏡花だった。
モンスターの群れは一〇〇を優に超えており、それらが一斉に動き出している。
そのような光景は鏡花は見たことがなく、顔を青ざめながらの呟きだった。
「あーららー。これは結構な数ですね」
「ランクも高そうね。でも、すぐに片づけて戻らなければなりません」
「分かっていますよ。スキルの出し惜しみもしていられませんね」
鏡花とは違い、彩音と影星は冷静にモンスターの群れを眺めており、どうやって片づけようかと考えていた。
「……あ、彩音さんと影星さんは、怖くはないんですか?」
単純な疑問を鏡花は口にした。
「怖いですよ。でも、やらなければ、こっちがやられちゃいますからね」
「それに、場数でしょう。あなたはまだ低ランクの扉しか攻略したことがないようだからな」
「ちょっと! 言い方、影星さん!」
「知らないわ。私は私のやりたいようにやるもの」
「冷たいんだからー」
彩音の影星のやり取りを見ていると、一人で不安になっていた自分が普通ではないのかと勘違いしそうになる鏡花。
だが、彩音も鏡花も、あえてそうしているのだとは気づけなかった。
むしろ、それが良かったのかもしれない。
鏡花は気持ちを引き締め直し、モンスターの群れへ視線を向けた。
「……指示を、お願いします!」
真剣な面持ちでそう口にした鏡花を見て、彩音と影星は顔を見合わせ、一つ頷く。
そして、指示を出したのは彩音だった。
「私たちの中で殲滅力が高いのは鏡花ちゃん、あなただよ。だから、一発どでかいのをモンスターの群れのど真ん中にぶっ放してくれるかな!」
「いきなりでいいんですか?」
「構わないわ」
鏡花の疑問に答えたのは影星だ。
「いくら統率の取れているモンスターだとしても、一気に数が減れば多少なり動きが鈍る可能性があるものね」
「そうならなくても、数が減るのはありがたいからね!」
影星の説明に彩音も付け足し、鏡花は大きく息を吐く。
「……分かりました。それじゃあ、いきます!」
気合いを入れた鏡花が、氷魔法を発動させる。
その規模は今まで見せたものとは異なり、広範囲に高威力をもたらす大規模なものだ。
「凍てつく世界をお見せします」
彩音の指示通り、鏡花はモンスターの群れのど真ん中で魔法を行使する。
青と白が入り混じった巨大な魔法陣が展開されると、その一帯の気温が急激に下がっていく。
モンスターの体に霜が降り、吐く息が白くなる。
しかし、それでもモンスターの大行進が止まることはない。
影星の当ては外れてしまったかもしれないが、鏡花は構わず魔法を発動させた。
「広域殲滅魔法――アイスワールド!」
アイスワールドが発動した直後、効果範囲の気温が氷点下を越え、モンスターが一瞬にして凍り付く。
即座に絶命するモンスターもいれば、凍り付いてもなお動こうとして体を砕き死んでいくモンスターもいる。
しかし、中には氷耐性を持っているのか、凍り付くことなく動き続けるモンスターもいた。
「……と、止まりません!」
「鏡花ちゃんはそのまま魔法をモンスターがたくさんいるところに使ってちょうだい! 影星さんは護衛をお願い!」
「あなたはどうするの、風切彩音?」
「決まっているわ! 残ったモンスターを殲滅するのよ!」
そう宣言した彩音は、腰に下げていた新たな武器を抜き放つ。
「き、気をつけてください、彩音さん!」
「もちろん! それじゃあ、いってくるね!」
数が大幅に減ったとはいえ、まだまだモンスターの数は脅威を誇っている。
それにも関わらず、彩音は普段と変わらない表情のまま、その群れへと突っ込んでいった。
「……大丈夫でしょうか、彩音さん?」
「本人が大丈夫と言ったのよ。あなたはあなたを仕事をしなさい、天地鏡花」
そう口にした影星は、おもむろに短剣を抜き放ち後ろを向く。
そこにはドラゴンの支配下にはない、本能で動くモンスターの姿があった。
「私は私の仕事をするわ」
「わ、分かりました! よろしくお願いします!」
彩音から与えられた影星への指示は、鏡花を護衛すること。
その仕事を全うするべく、影星はモンスターへと躍りかかった。
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