第157話:つぎはぎだらけのドラゴン
『グルオオオオッ!!』
ドラゴンは大咆哮を放つと、つぎはぎだらけの体の縫い目から、毒々しい色の煙を噴き出させた。
「あれは毒だ! 気をつけろ!」
先にドラゴンと一戦交えている国親が叫ぶと、全員が距離を取る。
「あれじゃあ近づけないわよ!」
「任せてください! アイスフィールド!」
歯噛みする彩音の言葉を受けて、鏡花が毒の煙を一瞬にして氷漬けにしてしまう。
『甘いわ!』
直後、邪魔が入らなくなっていたドラゴンはブレスの体勢に入っており、一帯を焼き払うつもりだ。
「影移動」
『がふあっ!?』
そこへ影を伝い、毒を避けて近づいていた影星が影から飛び出し、ドラゴンの顎を下から斬りつける。
無理やり顎を閉ざされたドラゴンは、またもブレスを吐くことができずに黒煙を吐き出したが、瞬時にターゲットを影星に切り替える。
前足を鋭く振り下ろし、叩き潰そうという魂胆だ。
しかし、影星は素早く影へ移動することで、ドラゴンの振り下ろしを間一髪で回避した。
『この! ちょこまかと!』
国親との一対一を優位に戦っていたドラゴンも、狙いが複数になったことで意識を割かれている。
このまま押し切ることができれば倒しきれると誰もが考えた――その時だ。
「……マズいな、これは」
最初に気づいたのは、恭介だった。
「モンスターが、集まってきてる?」
続いて竜胆が気づくと、即座に指示を飛ばす。
「鏡花と彩音と影星は近づいてくるモンスターを相手してくれ!」
「そんな、お兄ちゃん!」
「こいつはどうするんですか!」
竜胆の指示に鏡花と彩音は否定的な言葉を返す。
「モンスターが集まってきたら、それこそ俺たちが蹂躙される! 広範囲で攻撃できる鏡花をサポートしてやってくれ、彩音!」
「……行きましょう。風切彩音、天地鏡花」
そこで声を掛けたのは、影星だった。
「そんな、影星さん!」
「何をそんなに慌てているのかしら、風切彩音? 簡単なことよ」
「な、何が簡単なんですか?」
影星の言葉の意味が理解できず、鏡花も問い掛けた。
「私たちがモンスターの群れをさっさと片付けて戻ってくればいい、ただそれだけの話。ここで時間をつぶしている暇はないのよ」
そう答えた影星は、踵を返してモンスターが迫ってきている方向へと駆けていった。
「ちょっと! ……もう! 分かったわよ! 竜胆さん、絶対に死んじゃダメですからね!」
「当然だ。さあ、鏡花も行くんだ」
彩音も覚悟を決めたところで、竜胆は鏡花に声を掛けた。
「そんな。でも、私は……」
「安心しろ。俺はお前を置いてどこかに行ったりはしないって、言っただろう?」
竜胆は柔和な笑みを浮かべると、優しく鏡花の頭を撫でた。
「……分かった。すぐに戻ってくるからね!」
「あぁ、頼んだぞ!」
こうして鏡花は彩音と一緒に駆け出していき、竜胆は静かに振り返る。
『くくくく。死ぬぞ、あの女共は』
「あっちのことより、お前は自分の心配をしたらどうだ?」
『ほほう? 我を倒せるとでも思っているのか? モンスターを呼び寄せたのが、我だとも知らずに?』
「あぁん? んなもん、最初から気づいているってんだよ」
「そうだね。君が人語を介している時点で、規格外なモンスターだってことは一目瞭然だからね」
ドラゴンが挑発的な言葉を投げつけても、竜胆たちは挑発に乗ることなく、むしろドラゴンを挑発しようと言葉を発している。
「それにそのつぎはぎ……お前、久我雅紀に何かされたモンスターだろう?」
『……その名前を、口にするなああああっ!!』
雅紀の名前を出した途端、ドラゴンの怒りが一瞬にして頂点へ達した。
大咆哮を放ち、転がっていた破片が周囲へ吹き飛ばされていく。
「おいおい、やり過ぎじゃねぇか?」
「でも、冷静さを欠いてくれるなら助かるよ」
「それじゃあ、ドラゴン狩りといこうか!」
「「おう!!」」
戦力を分断されたものの、竜胆たちは不思議なほど冷静さを保っていた。
それは自らの実力を過信しているからではなく、仲間の実力を信じているからだ。
竜胆だけでは、恭介だけでは、国親だけでは、こうはならなかっただろう。
ともに戦ったことがある仲間だからこそ、窮地でこそ冷静でいられたのだ。
竜胆たちは散開すると、ドラゴンとの戦いを再開させた。
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