第155話：敵か味方か
竜胆たちは一直線に港へと向かっていた。
しかし、その道中には大量のモンスターが地上を蔓延っており、多くのプレイヤーたちが魔獣討伐に乗り出しているものの、なかなかその数を減らすことができていない。
それは何故か――新人プレイヤー用の扉から溢れ出したはずのモンスターが、どれもこれもＢランクやＡランク相当の実力を有するモンスターだったからだ。
『グルオオオオッ!!』
「う、うわああああっ!?」
Ｂランク相当の実力を持つ魔獣が、若い男性プレイヤーを両腕で叩き潰そうとしていたところへ、竜胆の鋭い一閃が放たれる。
振り下ろされた両腕が天高く斬り飛ばされ、若い男性プレイヤーは扇がれた風を浴びただけで、目を丸くする。
「ふっ！」
続けざまの横薙ぎがモンスターの首を刎ね、若い男性プレイヤーは九死に一生を得た。
「一人で無理なら協力して倒せ！ 無駄死にだけはするなよ！」
「……は、はい！」
去り際に竜胆がそう叫ぶと、若い男性プレイヤーは一泊遅れて返事をすると、すぐに別のプレイヤーが戦っている場所へ駆けていく。
「ひゅー！ 先輩してるじゃないですか、竜胆さん！」
「茶化している場合か！」
彩音の言葉に竜胆がやや声を荒らげる。
「でも今のプレイヤー、竜胆君より先輩だよ？」
「弱い奴は、強い奴に従えばいい」
恭介は冷静に状況を見ており、影星は厳しい意見を口にした。
「……みんな、すごい。こんな状況なのに、余裕をもって話してるよ」
鏡花は竜胆たちについていくのがやっとという感じで、会話に参加できていない。
そんな竜胆たちの姿に感心しながら、頼もしさを覚えていた。
しかし、竜胆たち以外のプレイヤーはすでに疲労困憊のように見えており、鏡花は彼らを助けることも大事なのではないかと感じ始めていた。
「鏡花、大丈夫……」
一度振り返った竜胆が鏡花を見ると、彼女が周りのプレイヤーを見ていることに気がついた。
竜胆も助けられるのであれば助けたいという思いはある。
だが、今は炎で雅紀を殺したモンスターを倒すことが先決だという考えも残っている。
あの炎が日本のいたるところに撃ち出されたら、全てを防ぎきることは難しいはずなのだ。
「……恭介、溜め込んでいるポーションをプレイヤーたちに配れるか？」
そこで竜胆が思いついたのは、ガチャで大量に獲得していたポーションをプレイヤーたちに配るというものだった。
「それはできるけど、いいのかい？」
「日本がなくなったら、ポーションを溜め込んでいてもあんま意味がないだろう？ お金になるとはいえ、お金なんてもっと意味がなくなるからな」
「お兄ちゃん！」
竜胆の判断に恭介も納得し、鏡花は感激の声を上げた。
「ちょっと、そこの君！」
「は、はい！」
恭介は近くで休んでいた女性プレイヤーに声を掛けると、マジックバッグからポーションを手渡した。
「これを使って」
「あ、ありがとうございます！」
「他のみんなも！ ポーションを支給するから、怪我をしている者は申し出てほしい！」
恭介が声を張り上げると、近くにいたプレイヤーが集まってくる。
中には重傷と思われる者もいて、恭介は急いでそちらへ駆け寄っていく。
「ほ、本当に、いいんですか？」
「もちろんだ。彼の厚意でね」
もちろん、恭介はポーションを配るという評価を自分で得るつもりはない。
竜胆を示しながら伝えると、プレイヤーたちは感激の視線を彼に向けた。
「……恭介の手柄でいいだろうに」
「そうしたくないのが、矢田先輩のいい所ですよ」
少しだけ足止めを食ってしまったが、これは必要な足止めだと竜胆たちは割り切ることにした。
「いくつかのポーションを渡しておくから、他にも怪我人がいたら渡してあげてほしい」
「わ、分かりました！」
こうして竜胆たちは、再び港に向けて駆け出して行った。
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