第147話：同族食い
人型を模している同族食いは、異常に長い腕を足をしならせるような動きで攻撃を仕掛けてくる。
デュランダルで応戦する竜胆だが、同族食いの皮膚は以上に硬く、刃を通さない。
『ゲギ！ ゲギイイイイッ！』
「なんだ、炎は苦手か？」
魔法剣によって炎を纏っていたことが功を奏し、同族食いの皮膚には切り傷はなくとも、焦げ跡を残すことには成功していた。
しかし、それが大きいダメージになっているとは思っておらず、竜胆は他にも対策が必要だと考えていた。
（時間を掛ければ鉄壁反射で一発逆転を狙えるだろうけど、動きも早いし、何よりリーチが長い。同族食いの懐に入り込むのは、結構難儀だぞ）
思考を止めずに戦い続けている竜胆を、鏡花は恐怖の表情のまま見守っている。
「……ほ、本当に、大丈夫でしょうか？」
鏡花が思っていた以上に戦闘が長引いており、彼女は心配の声をあげる。
「大丈夫だよ、鏡花ちゃん」
「そうそう！ それに、きっと参考になることもあるはずだから、しっかり見ておくんだよー？」
「……分かり、ました」
恭介と彩音が笑顔でそう口にしたことで、鏡花は心配しているのが自分だけなのかと思い、安堵の息を吐きながらそう答えた。
しかし、内心では恭介と彩音も肝を冷やしている。
（あの同族食い、意外と強いな。だいぶ多くのモンスターを食らっているみたいだ）
（もう！ さっさと倒してよ、竜胆さん！）
恭介は冷静に分析をしており、彩音は倒し切れていないことに焦りを覚えていたが、それが顔に出ないよう、鏡花に心配が伝わらないよう、気をつけていたのだ。
『ゲギャギャギャギャ！』
そして、何度か攻撃をぶつけ合った同族食いは、竜胆が脅威にならないと判断したのか、一気に攻勢へと打って出た。
「ちっ！」
長いリーチを活かした攻撃に、竜胆は防戦一方となる。
恭介と彩音はどちらかが援護に出れたらよかったものの、一人がここを離れると、同族食いのターゲットが鏡花たちに変わる可能性もあり、動けない。
時折竜胆が恭介と彩音に視線を向けており、それが『動くな』という合図だということも、二人は十分に理解していた。
（このままじゃジリ貧だな。ここはやっぱり、鉄壁反射で――!?）
そう思った直後、同族食いが大きく後方へ飛び退く。
攻勢に出たかと思えば、突然距離を取った行動に、竜胆は困惑を隠せない。しかし――
『ゲギャアアアアッ!!』
「なっ!?」
着地と同時に予想外の加速を見せた同族食いは、飛び退いて開いた距離を瞬く間に詰めてきた。
体を捻り、遠心力を上乗せした、同族食いだけが届く距離の一撃を、竜胆は受け止めることしかできない。
「ぐおおおおっ!?」
『ゲヒアアアアッ！』
受け止めた反動でたたらを踏んだのを見た同族食いは、今度こそ倒し切れると判断したのか、雄叫びをあげながら一気呵成に攻めてきた。
反射を使うタイミングを見計らっていた竜胆だったが、このままでは先にこちらがやられてしまう。
そう判断し、戦略を変えることにした。
『ゲギャギャギャギャアアアアッ！』
大きく体を仰け反らせた同族食いは、両手を重ね合わせると、渾身の力で振り下ろす。
受け止められたとしても、しなりを利かせた一撃であれば、そのまま押し潰してしまえると判断したのだろう。
「お兄ちゃん！」
そこへ鏡花の悲鳴にも似た声が響き渡る。
「反射！」
ここが反射の使いどころだと、竜胆は判断した。
本来であれば一撃必殺を狙いたかったが、それが難しいと思考を変え、現状の戦力を削る判断に切り替えたのだ。
ぶつかり合うデュランダルと同族食いの両拳。
――ドンッ！
『ギゲギャアアアアァァアアァァッ!?』
吹き飛んだのは、同族食いの両拳だった。
溜め込まれた反射の威力によって、拳だけではなく、両腕が半ばから吹き飛んだ同族食いは悲鳴をあげ、涎をまき散らしながら大きく距離を取る。
このチャンスを逃すわけにはいかないと、今度は竜胆が攻勢に出た――だが。
「足が、動かない!?」
一瞬の隙を突き、同族食いが土魔法で竜胆の足を地面に固定していた。
「ちっ！」
すぐに足を掴んでいた土の手を破壊して後を追おうとしたのだが、この一瞬の時間で最悪の展開が起きていた。
『ゲヒ！ ゲヒヒ……ゲギャギャギャギャ！』
同族食いは、食い散らかしていたボスモンスターの死体を食らい、傷を癒していた。
吹き飛ばした両腕が再生し、疲弊しているのは竜胆だけになってしまう。
「……これはもう、やるしかないか」
汗を流しながらも、竜胆は一つの決断を迫られることになってしまった。
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