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俺だけのスキル【ガチャ】が世界を救う  作者: 渡琉兎


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第134話:鏡花の状況

 一階のフロアに移動した竜胆たちは、その足でイートインスペースへ移動する。


「俺は帰るぞ」

「私もやることがあるので失礼する」


 途中、国親と影星からそう声が掛かると、二人は協会ビルをあとにした。


「……それで、竜胆さん。鏡花ちゃん、本当に大丈夫なんですか?」

「さっきの言い方だと、何かあったんじゃないのかい?」


 二人は竜胆の歯切れの悪さを心配しており、鏡花に何かあったのではないかと気になっていた。


「……実は」


 ここでも歯切れが悪く、険しい表情の竜胆を見て、二人はゴクリと唾を飲む。


「鏡花がプレイヤーに覚醒した」

「「…………え?」」


 しかし、恭介と彩音が思っていたような深刻な状況ではなく、むしろプレイヤーに覚醒したと聞いて、二人は驚きの声を漏らした。


「……そ、それは本当なのかい、竜胆君?」

「あぁ。だけど、俺の時と比べて命の危険もありそうだったから、絢瀬先生が俺を呼び出したらしい」

「でも、プレイヤーへの覚醒で命の危険があるなんて、聞いたことがないよ?」


 竜胆の答えに彩音が疑問の声を口にすると、恭介も一つ頷いてい見せる。


「俺も初めて聞いたし、先生もそうらしい。たぶんだけど、エリクサーがなんらかの影響を与えたんじゃないかって考えているみたいだ」

「だけど、エリクサーにプレイヤーへの覚醒を促す効果なんて、聞いたことがないけどなぁ……」

「私も聞いたことがありません」

「そもそも、エリクサー自体がそこまで出回るものじゃないからな。今日の扉もそうだけど、俺たちは知らないことが多すぎるんだ」


 エリクサーにプレイヤーへの覚醒を促す効果があるのかどうかは分からない。言葉通り、とても貴重なアイテムなので出回ることの方が少ないからだ。

 使われた事例も少なく、使われたとしても相手はプレイヤーであり、すでに覚醒した人間でもある。

 プレイヤーではない人間に使われた場合にどうなるのか分からない以上、エリクサーが絶対に原因ではないとは言えないのだ。


「覚醒前までは苦しそうだったんだけど、覚醒後はなんかスッキリした表情になっていたし、こっちの状況も伝えていたからな。すぐに向かってって言われて、駆け付けたんだ」

「そうだったんですね」

「もしかすると、僕たちは鏡花ちゃんに助けられたのかもしれないね」


 鏡花が竜胆を引き留めていれば、もしかすると恭介たちも犠牲になったプレイヤーと同様に、星4の二重扉で命を失っていたかもしれない。

 そう考えるとゾッとすると同時に、恭介と彩音は鏡花へお礼を言いたくなってきた。


「竜胆君はこのまま病院へ向かうのかい?」

「あぁ。無事だったとはいえ、何が起きるか分からない状況だからな」

「それなら私たちも行きたいです! 鏡花ちゃんにお礼も言いたいし!」

「お礼? 彩音がどうして鏡花にお礼を?」

「竜胆さんを送り出してくれた、そのお礼ですよ!」


 そこは自分の判断なのでは竜胆は首を傾げたが、鏡花が彩音や恭介にも懐いていることを知っており、顔を合わせれば嬉しいだろうと思い、二人を連れていくことにした。


「分かったよ。まあ、今の鏡花を見たら驚くと思うけどな」


 竜胆の言葉に、恭介と彩音は顔を見合わせると、同時に首を傾げる。

 そんな二人を伴った協会ビルをあとにした竜胆は、その足で鏡花が入院している病院へと向かう。

 そこでプレイヤーに覚醒し、見た目がガラッと変わった鏡花を見た恭介と彩音はというと――


「……鏡花、ちゃん?」

「……え? 何が、どうなっているんだい?」

「えへへ。こうなっちゃいました」


 黒髪ショートだった鏡花が、青髪ロングに早変わりしてしまっており、二人は何度も瞬きを繰り返しながら彼女を凝視している。


「まあ、こうなったんだ」

「え? 覚醒した時って、こうなりましたっけ? 私、こうなってたのかな?」

「彩音さん、落ち着いて。こうはならないから」


 あまりの変わりように混乱し始めた彩音を、恭介が宥めている。


「検査の結果は問題なし。むしろ、覚醒してからの方が調子が良いはずよ」


 驚いている二人を横目に、環奈が検査結果を報告してくれた。


「ありがとうございます、先生」

「とはいえ、まだまだ分からないことの方が多いわ。もう少しだけ検査に協力してもらえたら退院しても問題ないと思うから、鏡花さんもよろしくね」

「はーい!」


 困惑していたのは竜胆も同じだったが、環奈の口から退院という言葉が飛び出したことで、驚きのまま彼女へ視線を向けた。


「……本当ですか? 鏡花が本当に、退院できるんですか?」

「えぇ、問題ないわ。それと、プレイヤーの先輩として、鏡花さんにいろいろと教えてあげてちょうだいね」

「……あ、ありがとうございます!」


 すぐにお礼を口にした竜胆は、勢いよく頭を下げる。

 そして、顔を上げた時には目じりに涙を溜めていた。


「やったな、鏡花!」

「うん! お兄ちゃん!」


 兄妹で外へ出かけるという何気ないことができなかった二人にとって、鏡花の退院というのは一つの大きな目標だった。

 それは周りに人がいようとも、気にすることなく涙を流して喜びあえるくらいに重大なことだった。


「今度デートだからね、お兄ちゃん! 約束したもんね!」

「もちろんだ! 買い物だって付き合ってやるよ!」


 それから竜胆と鏡花は、恭介と彩音も交えて、お出かけスポットの話で大盛り上がりになったのだった。

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