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俺だけのスキル【ガチャ】が世界を救う  作者: 渡琉兎


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第107話:ジェルゲイル②

「回復させてはダメよ!」

「分かってる!」


 ここで右腕を再生されてしまえば、スキル【鉄壁反射】を使った意味がなくなってしまい、今後は竜胆が警戒されてしまう。

 もう一度反射を当てることが難しくなり、ジェルゲイル優位の展開に持っていかれる可能性が高い。


「くそっ! 数だけは無駄に多いぞ、こいつら!」


 近接でしか攻撃する手段を持たない竜胆は、コボルトの群れに行く先を塞がれてしまう。


「仕方ないわね!」


 そう口にした影星は僅かに後方へ移動すると、スキル【影魔法】を発動させる。


影針(かげばり)!」


 影星の前方にある影という影から、漆黒の針が地面から突き出す。

 漆黒の針がコボルトを突き刺し、一瞬のうちに道が開けた。


「行きなさい、天地竜胆!」

「言われなくても!」


 影針が解除されると絶命したコボルトが地面に横たわる。

 その死体を踏み越えて、竜胆がジェルゲイルへ躍り掛かった。


「はああああっ!」


 渾身の一撃が、ジェルゲイルの首を捉えた。


 ――ザンッ!


 肉を、骨を断つ感触が、疾風剣を通じて竜胆の手に伝わってくる。


 ――ドゴンッ!


「がはっ!?」


 直後、竜胆の腹部に強烈な一撃がめり込み、地面と平行に吹き飛ばされた。


「か、影移動!」


 このまま壁に激突すると思った刹那、影星が竜胆を受け止めると、激突のタイミングで影移動を発動した。

 激突を避けるように壁の中へ移動するも、影に入る条件となる『呼吸を止める』行動を竜胆が取れず、すぐに影から排出されてしまう。


「大丈夫なの、天地竜胆!」

「……大丈夫、ではないな」


 正直にそう口にした竜胆は、ポーションを入れていたポケットをまさぐる。


「……なんとか、こいつだけが無事だったか」


 ほとんどのポーションが割れてしまったが、中級ポーションが一本だけ割れずに残っていた。

 竜胆はそれを自分に振り掛けると、大きく息を吐き出しながら立ち上がった。


「ここから、回復アイテムはなしだ」

「そうみたいね。しかも……」


 そこで言葉を切った影星の視線はジェルゲイルを見ている。


「……ちっ、再生しちまったか」


 ジェルゲイルの右腕が元に戻っていた。竜胆を殴りつけたのも、その右腕だったのだ。


「……なあ、影星。俺はジェルゲイルの首を斬ったよな?」


 確かな手ごたえを感じていたが、実際にはジェルゲイルは倒れておらず、反撃を食らってしまった。

 何が起きたのか、竜胆は理解できていなかった。


「あなたが斬ったのは、ジェルゲイルが盾にしたコボルトだったわ」

「……なんだと?」

「本当よ。自覚がなかったの?」


 影星の答えを聞き、竜胆はさらなる困惑に襲われてしまう。


(……おかしい。俺は確かにジェルゲイルの首を斬ったはずだ! だが、影星からはコボルトの首を斬ったように見えていたってことか?)


 ここまで考え、竜胆は目の前に立ち、唇を同属の血で染めたジェルゲイルを見やる。


(……違う。現実を見ろ、竜胆! 実際にジェルゲイルは生きていて、俺は反撃されたじゃないか!)


 ならば、竜胆が見た光景はなんだったのか。


「……まさか、ジェルゲイルのスキルか?」

「スキル……幻惑系のスキルということ?」

『チキュウジン、タンジュン! エサ、エサ! グラグラグラグラッ!』


 竜胆と影星の反応を見ながら、ジェルゲイルが高笑いする。


『ワカラナイ? グラグラ! ソウカ、ワカラナイカ!』


 意味深な言葉を口にした直後、ジェルゲイルの姿が急に歪んで見えた。


「警戒!」

「分かっているわ!」

『オソイ!』

「「――!?」」


 先ほどまで前方に立っていたはずのジェルゲイルの声が、竜胆と影星の間から聞こえてきた。

 直後、竜胆は右肩に、影星は左肩に強い衝撃を覚えて吹き飛ばされる。

 腹部を殴られた時の一撃よりは弱く、竜胆は受け身を取ると、すぐに立ち上がる。


「影星! 大丈夫か!」

「問題ないわ! あなたは自分の心配を――」

「後ろだ!」

「えっ?」

『グララッ!』


 今度は影星が困惑を覚える番だった。

 彼女も受け身を取り、竜胆よりも早く体勢を整えてジェルゲイルを視界に捉えていたはずだったのだが、それは違っていた。

 竜胆の警告で背後の気配に気づき、直後にはジェルゲイルの気味悪い笑い声が聞こえてきた。

 振り返る時間が勿体ないと影移動を発動しようとしたが、間に合わなかった。


「ぐがああああっ!?」


 影に沈み込む途中、目の前にジェルゲイルの爪が迫ってくる。

 短剣と左腕を盾にして致命傷は避けることができたが、強烈な一撃が沈み込もうとしていた体を影から引き揚げ、短剣を砕き、左腕を抉りながら打ち上げた。

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