85:福岡県民、ちょっとしんみり。
この世界に来て、何年が経っただろうか。
エリアスは十二歳。
既に私の身長をありえないほどに抜いている。
今年の四月から、騎士団に入団することが決定してた。
「何で寮に入るとよぉ」
「母上、ここにいるとですね、二人に守られ過ぎていると感じるんです。……と何度言えばいいんですか」
「子供なんやけん、守られとってよかろーもん」
「母上、書類は提出済みなので」
今更ダダ捏ねても、なんにもならないと言われてしまった。
エリアスが大人すぎる。
「父上、ニヨニヨしてないで母上を説得してくださいよ!」
「ん? カリナは何歳になっても可愛いなぁ」
「話、聞いてますか?」
エリアスくんや、そいつ一応聞いているんだよ。それでもその反応なんだよ。頭の中がお花畑なんだよ。
「なるほど、似たもの夫婦ということですね?」
「似てない!」
「似とらんし!」
「……そっくりですね」
キエェェェェェ! と叫びながら異論を唱えたけれど、完全に無視された。
「私も騎士団に入ろうかなぁ」
「ふぅん? よかっちゃない?」
「駄目だ!」
ルシアナはわりと強かに世渡りする系の子に育っているので、騎士団でもブイブイ言わせて楽しく過ごしそうだなと思ったけど、ロイは反対らしい。
こんなに可愛らしく、か細くて、か弱いのに、と。
「ルシアナがか弱かったことなんてあったっけ?」
はて? と首を傾げていたら、エリアスがクスクスと笑いながら「一切ありません」と断言していた。
「お兄様っ、ひどいっ!」
ルシアナが両手で顔を覆っていた。
それを見たロイは慌ててルシアナの背中を擦っている。
よく見ろ、ソイツ口元は笑っているぞ、と言いたい。
「エリアス、妹になんてことを……」
「ロイ……チョロイ」
「父上……チョロイ」
「お父様、チヨロイ」
「三人でその名を言うなよ!」
相変わらずの『チョロイ』は健在だった。
入団式当日から、エリアスは入寮してしまった。
団服かっこいいとか、騎士の誓いかっこいいとか、ワーキャー言ったものの、帰り道で素早く涙目になってしまっていた。
屋敷がちょこっとだけ寂しく感じる。
「私がいるじゃない……」
ルシアナが頬を膨らませてそんなことを言うものだから、嬉しくて、可愛くて、ぎゅむむむっと抱きしめた。
「ありがと、ルシアナ」
チュッチュと頬にキスをしていたら、ロイに担がれ止められた。
「俺にしとけ」
「おっほう……」
「わぁ……ごちそうさまぁ」
ルシアナにドン引きされてしまった。
私とロイは、何年経ってもラブラブだった。未だにベッドの中でイチャイチャすることもある。
結婚当初より減りはしたが。
どうやら今日はそういう日らしく、ロイが私を担いだまま主寝室へと向かっていく。
――――まったく、もう。辛抱がなかね。
思春期の子供の前でそんな空気を出すなよ、とは思うものの、ちょっと嬉しくもあるので強くは言わないでおく。
次話は、本日20時に投稿します。
そして、次話で完結となります!




