83:福岡県民、開発する。
ロイと結婚して何年が経っただろうか。
エリアスはスクスクと元気に育ち、八歳になった。
そして、三年前には娘のルシアナが生まれた。
家族四人、とても楽しく騒がしく過ごしている。
「お母さま、行ってきます」
「ほいほい、いってらー。気ぃつけてねぇ」
エリアスは今年から貴族学園に通っている。
「いっちゃやらぁぁぁ」
毎朝の恒例、ルシアナが金色の髪を振り乱し、茶色に近いオレンジの瞳に涙を溜めてギャン泣き。
エリアスが学園に登校しようとすると、後追いが酷くなるのだ。
「はぁ。今日も変わらず、エリアスラヴやねぇ」
私は外出しても笑顔で見送られるのに。
因みに、ロイも笑顔で見送られている。
両親共にハートブレイクである。
「マ"ァーマ"ァー」
涙と鼻水とヨダレまみれの顔で、ルシアナがこちらに走ってくる。
ハンカチを出し、抱きつかれる前に慌てて顔を拭く。
酷いと言われようが、きちゃないものは、きちゃないのである。
エリアスが学園に行っている間に、お店に出す新商品を考えたりしている。
店舗経営は順調で、まさかの四店舗目が先週オープンした。
貴族街に三店舗と平民街に一店舗。
今は平民街用の商品だ。
助手はこちらも色んなところがスクスクと育ったエマちゃん。身長は十五センチも追い越された。
「エマちゃん、彼氏とは上手くいってるの?」
「いきなりなんですか?」
「いや、エマちゃんから何も話さないからさぁ……」
気になって仕方ないのだ。
「主人にそんなことを気軽に話せませんよ!」
普通に怒られた。
主従関係とかなんとか言っているけれど、ただの照れ隠しとみた。
なぜなら、エマちゃんは元々から普通に何でも話してくれているから。なのに、なぜか彼氏の話はしてくれない。ケチである。
「はぁ、もお。早く作りますよ!」
「はぁい」
小麦粉に水を入れて、耳たぶくらいの柔らかさにする。多少ねちょねちょしてても構わない。
それを醤油的なものと昆布だしの野菜スープの中に落として煮る。
これだけだ。
大きさ的には五百円硬貨くらいでも、その倍くらいでも構わない。ただ、なるべくならば平ための方が、煮えやすい。といいうくらい。
「本当は味噌汁がいいんだけどねぇ」
そんなことをボヤきつつ、『だご汁、異世界ver.』が完成した。
「パスタともまた違いますね」
「だご、だしね」
「簡単なのに美味しいです。食感も独特で面白い」
ほんじゃあ、平民街のお店の定食のスープに採用しますか、と話が纏まった。
平民街で出す料理を考えるのが、一番楽しいかもしれない。
なぜなら、基本的にあちらで食べていたチープと言えそうなものたちが、ありえないほどに人気を博すのだ。
「昆布……こんなに売れると思わなかったよ」
「出汁にも具にもなるなんて、凄い海藻ですよね」
昆布さんは、万能なのだ。
昆布を手に入れてから、うどんが食べたい! と作ってみれば、全員がどハマりした。
あれよあれよという間に貴族街で出店することになり、いまや行列のできるお店になっている。
「小麦粉も万能だよね」
「ですねぇ。こんな使い方を思い付くカリナ様、凄いです!」
エマちゃんに褒められたが、とても後ろめたい。
なんというか、あちらでは全て既存のもので、ほとんどの人が知っているものばかりなのだ。
いや、だご汁に関しては地域性がパないけども。
後ろめたさを誤魔化すため、腕まくりをして次の商品開発に取り掛かった。
次話は本日お昼頃に投稿します。




