75:福岡県民、コソコソする。
ロイが謎のタイミングで嫉妬をして、腰砕けボイスで責めてくる。
「ちょ! やめい!」
「ん? どうした?」
コイツ、絶対にわざとだ。
小声で止めろと言ってるのに、また耳元で囁かれた。
「いやはは、騎士団長閣下はまだまだ新婚の雰囲気で羨ましい」
「おっと、失礼いたしました」
小声で言い合っていたら、主催者である侯爵に話しかけられでしまった。
ロイが飄々とした顔で返事しているのが余計にモヤッだ。
モヤッモヤッ!
「ブフッ。カリナ、こそばゆいから!」
エスコートスタイル中、ロイの内肘にコソコソと爪を立てていたが、特に効果はなかったらしい。
「ちっ!」
「何やってますの、お二人とも」
「あ、マルティーナ! ねーねー、ちょっと聞きたいんだけど――――」
またもやロイと小声でやり合っていたら、マルティーナと副団長が近付いてきた。
マルティーナの隣にいる副団長を見ると、スンとした顔でエスコートの手を解いている。
――――ツンデレか?
「なんですの?」
「ハンス副団長って、マルティーナのこと好きなんだよね?」
「っ⁉」
マルティーナに聞くふりして、副団長に爆弾投下。
副団長が目を見開いて息を飲んだ直後、瞳がフルフルと泳いでいだ。
マルティーナは顔が真っ赤だ。
「あー、やっぱ相思相愛なんだね! 二人ともツンデレやめなよ?」
「うるさい」
「うるさいですわよ!」
うむ、二人とも反応がそっくりだ。
◇◆◇◆◇
分かっていた。
堕ちているのは。
高飛車で威圧的で不遜な態度ばかり取る、自己中心的な女。
それが、私がマルティーナに持っていた印象だった。
ロイとカリナが付き合い出し、結婚することが確実になった頃、マルティーナとカリナの距離が近づき始めた。
「貴方、カリナ様ばかり見てますわね?」
私が苦手なのか、今まではなるべく関わらないようにしていたくせに、なぜか絡まれた。
「二人は想い合っているのでしょう? 無駄な希望は捨てたらどうかしら?」
「それをお前が言うのか……」
ロイとカリナを邪魔しているくせに、何を言うんだと思ったから。
その瞬間、マルティーナが悲しそうな顔をして「解っていますわ。私にだって事情がありますの。どうしようもありませんのよ」と言った。
いつもの振る舞いからは考えられないほど、艷やかな大人の表情。
「あ、侍女が戻りましたわね」
そう言った瞬間、スッといつもの高飛車な雰囲気になった。
しばらく調べて分かったのは、彼女は父親から命令をされていたことだった。どうやってもロイを落とせ、と。
侍女は父親の息がかかっているのだろう。
しばらく様子を見ていて気づいたのだが、侍女に飲み物を作らせに行かせたり、何かを取りに行かせたりして、一瞬の息抜きをしているのがわかった。
「なぜ従っている?」
「…………実の子ではなかった娘は、どのような扱いになるか、ご存知で?」
「っ⁉ ロイは、知っているのか?」
「彼には言わないで!」
――――あぁ、本当は昔から好きだったのか。
なんとなくだが、そう思った。そう思えば、様々なことに合点がいく。
色々なことを堪えて、ひとりで戦う気の強い女。
マルティーナ。
誰か、支えてやればいいのに。
カリナに核心を突かれた。
分かっていたんだ、堕ちているのは。
だが、まだだ。知られるのはまだ早い。
準備が整うまでは、全力で有耶無耶にせねばな……。
次話は明日のお昼頃に投稿します。




